日本医薬品添加剤協会 |
和名 豚脂[トンシ] 英文名 Lard CAS 61789-99-9 (link to ChemIDplus), (link to JAN DB), (link to JANe DB) 別名 収載公定書 局方(JP17) 用途 基剤 ■単回投与毒性 該当文献なし ■反復投与毒性 (link to TOXLINE) マウス C57BLマウスに豚脂を25%濃度で混餌投与した。マウスは離乳後,6ヵ月齢,12ヵ月齢からそれぞれ生涯摂取群,1,7,12ヵ月齢から5ヵ月間摂取群を設けた。対照群は実験動物用の飼料を与えた。マウスは種々の時期に屠殺して,骨格の変化を調べた。体重増加は豚脂摂取群が対照群に比べて大きく,一番増加の程度が少ないものは,5ヵ月間豚脂摂取群と12ヵ月齢から豚脂を摂取した群であった。データは統計学的に処理したものではないが,豚脂摂取群の寿命は短く,離乳児から豚脂を摂取した群が一番重度な変化がみられた。5ヵ月間豚脂摂取群の生存率への影響は投与した時期に応じていた。即ち,成長期への投与では,高脂肪飼料は寿命への影響はなく,むしろ,若齢動物では好ましい効果となったが,高齢のラットに与えると寿命に軽度な障害を与えた。1) (Silberberg, 1954, 1955) ラット Wistar系ラットに豚脂を混餌して合計のカロリー10%〜73%となるようにして6週間与えた結果,豚脂の飼料効率はバーター脂肪と同等であった。また,死亡率への影響は認められなかった。1) (Thomasson, 1955 ) ■遺伝毒性 疫学的調査では直腸癌の発現と食事の脂肪との関連はみられなかったが,2つの遺伝子座位(結腸のDlb-1宿主遺伝子及びlacIトランス遺伝子)をもつ腸上皮細胞への高脂肪食の変異原性を調べた。トランスゲニックマウス4例(雌雄各2例;ヘミ結合lacIの交雑F1したC57BL1/6及びSWRマウス)に31%豚脂を含む飼料を5あるいは9週間与えた(他の脂質は,カロリーの半分は実験動物用飼料の脂質であった)。突然変異頻度は対照群に与えた基礎飼料と比較して有意な増加は認められなかった。1) (Zhang, 1996) ■がん原性 がん原性の指標として増殖細胞の増加が用いられており,乳腺及び大腸直腸細胞内への3Hチミオジンの取込は,植物油を多く含む飼料と比べて豚脂を15% 含む飼料で30日間飼育した若齢Swiss Websterマウスでは大量に認められた。1) (Clayson, 19921) 脂質(豚脂あるいは魚油)を15%加えた飼料で飼育したマウスでは,ダイズ油,ベニバナ油を脂質源とした飼料で飼育したマウスと比較して,乳腺導管細胞,大腸直腸腺窩の嚢胞当たり3Hチミオジン取込細胞数の増加が(p<0.01)報告されている。1) (Lok, 1992) 短期間の高脂肪摂取が膵細胞,結腸細胞過形成を誘導するかどうかを調べた。ラット1群8例に豚脂を27%,コーン油を30%,3%含む飼料を4週間与えた。対照群にはコーン油5%を加えた飼料とした。高脂肪を与えた2群では,空腸近位腫瘤の有意な減少(p<0.05)がみられた。高脂肪群では膵リパーゼ活性の増加,アミラーゼ活性の減少が認められたが,細胞増殖への変化,胃,膵,結腸のDNAへの3Hチミオジン取込への影響は全くみられなかった。これらの成績は,細胞過形成の亢進による膵・結腸のがん原性が高脂肪によるとした今までの概念を支持しない結論となった。1) (Jacobs, 1993) 腫瘍の前段階となる消化管上皮の高度な過形成における高脂肪の役割を調べた。Wistarラット1群雄10例に豚脂,コーン油,魚油をそれぞれ80 g/kg含み,繊維を含まない飼料を与えた。投与14日後,中期阻害技法により腺窩細胞産生率(CCPR)が小腸の2ヵ所,盲腸の1ヵ所,結腸の2ヵ所で検出された。これらは陰性対照群では認められなかった。空腸,回腸,近位結腸におけるCCPRは豚脂群とコーン油群では差がみられなかったが,魚油群では有意な減少(p<0.05)が認められた。盲腸のCCPR値は,豚脂群と魚油群では差がみられなかったが,コーン油群では有意な減少が認められた。遠位結腸のCCPR値は,コーン油群と比較して,豚脂群と魚油群の値は低かった。n-3脂肪酸を含む魚油群では,消化管の一部ではCCPR値は相対的に低いと考えられた。1) (Pell, 1994) Sprague-Dawley系ラット1群雌20例に発がん物質7,12-dimethylbenz[a]-anthracene (DMBA)を強制経口投与を行い,20%豚脂(第1群),3%ヒマワリ油に17%獣脂あるいはココナッツ油混合(第2,3群),20%獣脂(第4群),20%ココナッツ油(第5群),3%ヒマワリ油(第6群),20%ヒマワリ油(第7群)それぞれ混餌投与した。ラットは毎週触診により腫瘤を調べ,試験終了時に剖検を行った。リノール酸含量は第1,2,3,6群では2.1-2.5%(重量),第4,5群では約0.4%(重量),第7群では13.8%(重量)であった。 乳腺腺癌の発生頻度は,第4,5,6群と比較して第1,2,3,7群では多かった。このことから,高脂肪食(20%)と中等度のリノール酸はDMBA惹起発がんを増強するとみなした。1) (Hopkins, 1979) DMBA惹起乳腺腫瘍ラットでは,20%豚脂,20%コーン油群の腫瘍頻度は5%豚脂,5%コーン油群と比較して高かった。早期性成熟(膣開口から判断)は,5%コーン油,5%豚脂群と比較して20%豚脂群は有意に早期となった。混餌投与後3,10週目に血清プロラクチン濃度を測定した結果,いずれの群も同等な値を示した。無処置群は設けなかった。1) (Rogers, 1981) 20%豚脂を摂取したラットのMNU(N-methylnitrosourea)惹起乳腺腫瘍の頻度は,4%豚脂と比較して高かった(p<0.0001)。両群にコレステロールを追加しても,頻度に変化はみられなかった。(非けん化性分画への阻害として)トリグリセリド分画は,乳腺腫瘍の誘導の決定因子と考えられた。1) (Cohen, 1982) Fisher系ラット雌27例に乳腺腫瘍をMNUで惹起させ,32%(重量)豚脂を混餌投与した結果,乳腺腫瘍の頻度は63%であった。この頻度は5%コーン油を混餌投与した23例の頻度33%と比較して,統計学的(Student-Neuman-Keuls法)に有意差は認められなかった。触指可能な腫瘤の初発群をランクすると,高濃度コーン油>高濃度豚脂>高濃度牛脂>低濃度コーン油,高濃度ココナッツ油となり,飼料中のオレイン酸とリノール酸の合計含量と比例していた。1) (Chan, 1983) 高脂肪を与えたラットのDMBA惹起乳腺腺癌は,乳腺の脂肪への直接作用より視床下部-下垂体系を介したプロラクチンによる誘導によるものかついて調べた。Sprague-Dawley系ラット1群雌20例に20%,5%半合成豚脂を与えた。尾静脈から採血を毎週,膣スメアを毎日,2及び5ヵ月間目に3週間実施した。2及び5ヵ月目の血清プロラクチン滴定量は,低脂肪摂取群より高脂肪摂取群の方が発情前・発情期で有意に(p<0.05)高い値を示した。発情後期・発情間期では両群ともにプロラクチン濃度に差は認められなかった。1) (Chan, 1975) 豚脂で認められる乳腺腫瘍の誘導はエストロゲン様作用によるものかについて調べた。思春期のマウス雌1群15例に20%,5%豚脂を7日間混餌投与した。豚脂3種は別途に分析した結果,第1豚脂はdieldrin 35 ppbを含み,残り2種は,ブチル化水酸化アニソール,またはブチル化水酸化トルエンをそれぞれ100 ppb含有した。エストロゲン様作用として,絶対子宮重量,相対子宮重量を測定した。その結果,陽性対照としたジエチルスチルベステロール群と比較して差は認められなかった。1) (Bier, 1986) 乳腺腫瘍への脂肪食の影響は発がんイニシエーション前,中期に起こるかについて調べた。Sprague-Dawley系ラット21日齢雌に5%コーン油(通常の脂肪対照),20%豚脂,20%コーン油,20%パーム油,20%牛脂を与えた。52日齢でラットにDMBAの経口投与を行い,1週間後に5%コーン油飼料を全例に試験期間中与えた。20%豚脂を試験期間中摂取したラットでは,他の群と比較してDMBA投与後19週間で乳腺腫瘍数の有意な増加(p<0.05)が認められた。腫瘍の頻度は牛脂群で多かったので(統計学的には有意差なし),動物性脂肪は性成熟,内分泌機能に影響を及ぼすかについて引き続き調べた。膣開口の平均日数は対照群と比較して20%脂肪群は早期であった。更に,プロラクチン,黄体形成ホルモン,エストラジオールの変動期濃度,基準濃度,発情間期子宮重量には群間で差が認められなかった。即ち,動物由来の脂肪摂取群で観察された乳腺発がん誘発は内因性,外因性内分泌刺激によるものではなかった。1) (Sylvester, 1986) 外耳道,小腸,結腸のDMH(1,2-dimethylhydrazine)惹起腫瘍の発現頻度は,5%豚脂,対照群と比較して20%豚脂群では高かった。結腸腫瘍の頻度は,5%豚脂群と比較して5%コーン油群が軽度に高かった。これらのデータは統計学的な解析は行われていない。1) (Reddy, 1976) DMH惹起腫瘍は対照群と比較して5%(炭水化物を添加)及び30%豚脂群では,早期に発現し,消化管の合計腫瘍数が有意に増加(p<0.05)した。豚脂群では腫瘍の転移がしばしばみられ,生存期間が短縮していた。110日齢では,豚脂群では対照群と比較してコレステロール,トリグリセリドの上昇が認められたが,190日齢では5%豚脂群の濃度は対照群と差はみられなかった。血清免疫グロブリンG(IgG)濃度は豚脂摂取群では有意に低下したが,30%コーン油群,半合成卵白アルブミン,ダイズ油群では差が認められなかった(別途試験)。対照群と比較して,30%豚脂群では,DMH発がん初期にリンパ球の増加がみられ,多発性消化管腫瘍が減少した。1) (Bansal, 1978) AOM(azoxymethane)惹起結腸発がんにおける豚脂の増強効果はイニシエーションかプロモーション段階なのかについて調べた。離乳したF344系ラット雄(AOMを2週間投与)に23.5%,12.6%,5%豚脂を投与した後,5%豚脂飼料を更に34週間与えた。陽性対照(プロモーション試験)は最初に5%豚脂を与え,発がん物質を投与後に23.5%豚脂飼料に代えた。無作為に選択したラット6例にAOM最終投与後20,25,30週目に内視鏡検査によって腫瘍を調べた。結腸腺癌の用量に相関した増加がみられ,23.5%豚脂群(5%に変更)が有意(p<0.05)であった。多発性結腸腫瘍は5%豚脂摂取群と比較して23.5%豚脂(5%に変更)摂取群,13.6%豚脂(5%に変更)摂取群では有意な増加が認められた。陽性対照群は最も頻度の高かった。イニシエーション,プロモーション中の豚脂摂食群では小腸,外耳道の腫瘍頻度には一貫した変化は認められなかった。1) (Reddy, 1986) Wistar系ラット4週齡1群雄30例に40%,27.5%,15%豚脂に大量,中等度量,少量の繊維を混入して摂食させた。投与4週間後,ラットにN-methyl-N’-nitoro-N-nitroso- guanidineを週に1回,合計5回直腸内投与した。結腸癌が中間用量豚脂/中等度量繊維群で頻度と発現数ともに最も高度に認められた。高用量豚脂/大量繊維群では,ポリープの発現数が最も多かったため相対的頻度も多くなった。繊維量が多量に含まれる場合には脂肪量は腫瘍発現頻度に影響はなかった。1) (Sinkeldam, 1990) DMHイニシエーション処理したWistar系ラット雄に20%豚脂を標準飼料に混餌投与した結果,異常腺窩巣(ACF)の発現頻度に変化は認められなかった。しかし,20%繊維を豚脂飼料に添加した場合には中等度及び小さなACFの発現数及び合計数が有意に(p<0.05)減少した。1) (Kristiansen, 1995) azaserine,N-nitrosobis(2-oxopropyl)amine処理を行い,すい臓外分泌腺に前腫瘍発生巣を惹起させたラット,ハムスターに発がん処理後12日目から20%豚脂を与え,5%豚脂摂食ラットのすい臓と比較した。Wistar系SPF白色ラット雄1群40例に離乳後20%豚脂(高脂肪),4.52%豚脂/0.48%ベニバナ油/2.0%リノール酸(低脂肪),1.4%豚脂/3.6%コーン油/2.0%リノール酸(追加低脂肪)を与えた。19,26日目にazaserineを注射した。対照群にはazaserineを投与したが,標準飼料とした。剖検は482,485日目に実施した。ラットすい臓のazaserine惹起好塩基性巣は低脂肪群と比較して追加低脂肪群における頻度が有意に増加(p<0.05)した。追加低脂肪群は,20%豚脂群(p<0.01)と5%豚脂群(p<0.05)と比較して1 mmを超える異型腺房細胞結節が有意に減少していた。腺腫数は低脂肪群(p<0.01),追加低脂肪群(p<0.001)と比較して高脂肪群は有意に増加し,頻度は低脂肪群(p<0.05)と比較して追加低脂肪群が有意に低値を示した。これらのことから,azaserine処理ラットにおける高脂肪食のプロモーション作用はリノール酸によるものではないとみなされた。1) (Woutersen,) Wistar系ラット雄でN-nitrosodimethylamine(NDMA)惹起血管肉腫は,混餌豚脂を2%から25%に増加することにより,43%から67%に増加した。しかし,頻度の増加は統計学的には有意ではなかった。混餌脂肪量の増加は呼気量のエタン(過酸化脂質を測定)を増加させたが,その増加はヒマワリ種子油群で明らかであった。血管肉腫の増加はヒマワリ種子油群(2%対25%脂肪)が有意な変化(p<0.05)を示した。1) (Hietanen, 1990) ■生殖発生毒性 (link to DART) ■局所刺激性 ■その他の毒性 ■ヒトにおける知見 ■引用文献 Anonymous Final report on the safety assessment of lard glyceride, hydrogenated lard glyceride, lard glycerides, hydrogenated lard glycerides, lard, and hydrogenated lard. Int. J. Toxicol. 2001; 20: 57-64(link to the Journal) |メニューへ| |
Japan Pharmaceutical Excipients Council |