日本医薬品添加剤協会
Safety Data
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和名 硝酸カリウム
英文名 Potassium Nitrate

CAS 7757-79-1 (link to ChemIDplus), (link to JAN DB), (link to JANe DB)
別名 
収載公定書  食添(JSFA-IX) EP(4)
用途 発熱剤


JECFAの評価 (link to JECFA)
ADI(1日許容摂取量); 0-3.7 mg/kg bw(硝酸イオンとして)(1995年、第44回)2)
JECFAでは、第6回の評価結果に基づき、ADI 0-5 mg/kg bw (硝酸ナトリウムとして)に設定した。第44回JECFA(1995年)において、これまで提出された安全性データに基づき再評価し、人では摂取した硝酸塩が亜硝酸塩に容易に分解されることから、亜硝酸塩も併せて考慮すべきとされ、亜硝酸塩の安全性、硝酸塩から亜硝酸塩への転換率も評価され、これらの評価結果に基づきADI 0-3.7 mg/kg bw(硝酸イオンとして)(硝酸ナトリウムとして表現する場合は、0-5 mg/kg bw)を継続することにした。
無影響量(NOEL); ラットで 370mg/kg bw/日(亜硝酸イオンとして)(飲料水で投与)


単回投与毒性 (link to ChemIDplus),
ヤギ 
1群1.5-2.0才の山羊5頭に硝酸カリウムを1.3 g/kg bw(この量は0.66 g/kg bwに等しい量である。)を投与し、急性毒性を調査した。一部で食欲不振、軽度のうつ病、筋肉の震え、協調不能、呼吸困難、可視的な粘膜の褐色化が投与2時間後から観察され、最終的には唾液流涎及び結腸痙攣を起こし、横臥位になった。不可逆性の症状が5.8時間後に現れた時点で、動物をと殺し、検査のための臓器及び組織を採取した。血液学的並びに生化学的変化としてヘモグロビンの減少とメトヘモグロビンの著しい増加、プラズマ、尿及び脳脊髄中の硝酸及び亜硝酸塩濃度の上昇及び血中ブドウ糖の上昇が認められ、併せて胃液中のアンモニア性窒素の有意な上昇、血清中のコレステロール、尿素性窒素、クレアチニン、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ活性の有意な増加も認められた。血液、プラズマ、尿、脳脊髄液、胃液、体液のジフェニルアミンブルーテストでは毒性ピーク時に最もよく着色した。
硝酸塩の真の毒性を反映するものとして、脳脊髄液中の亜硝酸塩量が信頼性の高い指標になると思われる。組織病理学的検査結果は腎臓(上皮組織の変性を伴った尿管の変化)、肝臓(充血を伴う変性や局所的な出血、中心静脈の空洞拡大)、腸(粘膜の変性した絨毛及び粘膜への単核細胞の浸潤)、肺(肺胞の充血及び出血)、心臓(心筋並びに心筋内膜に出血を伴った変化)、リンパ節(リンパ球の減少)、膀胱(リンパ球で浸潤されたlamina propria)にそれぞれ変化が認められた。 急性毒性症状を呈した時点の心電図は顕著な頻脈を示していた。1) (Mondal & Pandey, 1999; Mondal et al., 1999a, 2000)


反復投与毒性 (link to TOXLINE)
ラット
1群雌雄10匹のラットからなる6群に、4週間、硝酸カリウムをそれぞれ0、1、2、3、4及び6%又は硝酸ナトリウム5%を混餌投与した。これらは硝酸カリウムとして0、500、1000、1500、2000及び3000 mg./kg bw/日に、又硝酸ナトリウムとして2500 mg./kg bw/日にそれぞれ相当する。飼料は2種類用意し、1つは穀類をベースにしたもの、他の1つは半精製飼料(semi-purified)を用いた。硝酸カリウムを3%投与した群の雌ラットではメトヘモグロビン濃度が僅かに上昇し、雄ラットでは腎の相対重量に増加が認められた。1%投与では影響はなく、2種類の飼料間においても主要な差異は認められなかった。2) (Til et al. , 1985)

ウサギ
1群雄ウサギ6匹からなる4群に、硝酸カリウムを0、200、400、600mg/kg/日をゼラチンカプセルに入れ、4週間pulse投与した。硝酸カリウムを投与した全てのウサギに、2週間以内に硝酸塩投与による毒性症状が認められ、体重の有意な差、頻脈、多尿、虚弱体質が観察された。2) (Nighat et al., 1981)

ヤギ
1群1.5-2.0才の山羊5頭に硝酸カリウムを0又は4 mg/kg bw/日、32日間投与した。 この量は硝酸イオンとして2.4 mg/kg bwに等しい量である。投与後22日目から、一部の動物で食欲不振及びdullnessが観察された以外は正常であった。 血液学的及び生化学的変化としてヘモグロビン濃度の減少、メトヘモグロビンの増加、プラズマ、尿中の硝酸及び亜硝酸塩濃度の上昇、血清中の尿素性窒素、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ活性の増加が認められた。形態学的な変化としては、投与後32日目にと殺した2例で、内臓器官に軽度の変性、充血や出血等が観察された。これらの症状は硝酸塩を長期に摂取しても、蓄積性を持つものではないと結論している。1) (Mondal et al., 1999b)


遺伝毒性 (link to CCRIS)
ハムスター細胞を用いたin vitroによる染色体異常試験結果では、硝酸ナトリウムは突然変異性を示したが、硝酸カリウムは陰性であった。食塩と塩化カリウムを同じ試験方法で比較すると、食塩は高濃度で陽性であった(Ishidate et al., 1984)。 この理由は染色体と濃度の上昇したナトリウムイオンとの相互作用の結果、染色体の異常が生じるのではないかと思われる。2) (Ashby, 1981)。


がん原性
該当文献なし


生殖発生毒性 (link to DART)
モルモット
硝酸カリウム0(4匹)、300(6匹)、2500(3匹)、10000(3匹)及び30000(3匹)mg/Lを含む飲料水を143-204日の間モルモットに投与した。この量は硝酸カリウムとしてそれぞれラ0、12、102、507及び1130 mg/kg bw/日に相当する。30000 mg/L投与群では交配行動が高度に弱まり、妊娠動物数が大幅に減少した。硝酸カリウムの他の濃度を投与した群のモルモットでは全てが妊娠に、妊娠率に差がなかった。 全ての投与群で、体重の増加率、飼料、飲料水摂取量に異常はなく、顕微鏡観察の結果も生殖臓器における異常は認められなかった。2) (Sleight & Atallah, 1968)

ヒツジ
1群23-24頭の羊(年齢3.5-4.0歳)に硝酸カリウムを混餌投与した。予備試験で、20 mg/kg (硝酸イオンとして11 mg/kgに相当)の硝酸カリウムを投与すると、発情するヒツジの数が相当数の割合(32%)で減少した(p<0.05)。餌中の硝酸塩の濃度が0.5、1.5、5及び10 mg/kg bw/日(硝酸イオンとして0.27、0.54、2.7及び5.4 mg/kg bwに相当する。)で48日間投与した際には、性周期の行動に異常は認められなかったが、妊娠及び出産率は対照群よりも相当(5 mg/kg bw/日投与区で36%、10 mg/kg bw/日投与区で33%)低かった。1) (Nestorova et al., 1997)

ウシ
1群8頭の妊娠後期(分娩前46日)のウシ(異種交配牛)に、硝酸塩含量の高い乾燥オート麦を与え、92日間観察した。餌中の硝酸カリウム含有量が1.4%迄は、管理された条件のもとでは流産は見られなかったが、この濃度によるウシの体重減少は硝酸カリウムによるものと思われる。2) (HIxon et al., 1992)

1群5頭の16-18ヶ月令の雄牛(feeder bull)に硝酸カリウム又は対照餌を投与した。雄牛は硝酸カリウム投与前30日に検査し、投与30日間、投与後更に30日間検査した。硝酸塩の投与量は最初100g/日(亜硝酸イオンとして60gに相当)、1週間ごとに50gずつ増量し、最終的に250g(亜硝酸イオンとして150gに相当)投与した。硝酸塩の投与により、メトヘモグロビン濃度は上昇(p<0.01)、血清胆汁量の増加及びプロゲステロンの生物学的半減期が延長(p<0.01)が認められ、肝機能の低下も示唆された。更に、投与期間及び投与後のコルチゾール濃度の上昇(p<0.05)及び投与期間中チロキシン濃度の減少(p=0.05)による甲状腺機能の抑制が観察された。投与後、甲状腺刺激ホルモンの検出が不可能な濃度(p<0.001)に低下したことから、視床下部の機能低下が示唆された。投与期間中及び特に投与後にLeydig細胞の機能に硝酸塩が影響を及ぼしていることは、ゴナドトロピン投与に対する睾丸の反応が減弱していることからも明白であった。精液の分析結果から、総酸性ホスファターゼ活性の増加(p<0.01)及びフラクトースの減少が確認された。同様に硝酸カリウムの投与により、精子の自発運動も低減した。しかし、対照群と比較し、一時的な形態学的差異は認められなかったが、二次的異常が投与後115%へ上昇したことから、膜が損傷していることが示唆される。組織学的検査からは、精母細胞及び精子細胞層に損傷が認められた。1) (Zraly et al., 1997)


局所刺激性
該当文献なし


その他の毒性
副腎及び甲状腺への影響
1群雄10匹のウィスターラットからなる3群に、それぞれ塩化カリウム(対照群)、亜硝酸カリウム、硝酸カリウムを36mmol/Lを飲料水に溶かし、90日間投与した。亜硝酸カリウム及び硝酸カリウムを投与したグループは、対照群に比較し体重増加は遅れたが、体重1kg当りの餌摂取量は3群の間で差異は認められなかった。飲料水の摂取量は、亜硝酸塩を含む飲料水を摂取した群は、他の2群に比較し、統計的に有意に低かった。亜硝酸塩を含む飲料水を摂取した群は最初の1ヶ月間はチアノーゼ状態を呈したが、その後は正常に戻った。この理由は、飲料水の摂取量が低減したためと思われる。観察期間の最終時点では、メトヘモグロビン及び血中亜硝酸塩濃度の有意な上昇、亜硝酸塩及び硝酸塩投与ラットのプラズマ硝酸塩濃度はほぼ等しかったものの、対照群より高かった。亜硝酸塩及び硝酸塩投与によるチロキシン、遊離チロキシン、甲状腺刺激ホルモン、副腎皮質刺激ホルモン、コルチコステロン、アルドステロンの血中濃度への影響は認められなかった。顕微鏡による病理組織検査結果は、亜硝酸塩投与群の全てのラットで副腎皮質球状帯の肥大が観察されたが、硝酸塩投与群では10匹中2匹にわずかな肥大が認められた。副腎の形態測定結果も顕微鏡による検査結果に沿うものであった。硝酸塩を投与したラットにしばしば観察された副腎皮質球状帯の小肥大は、形態測定分析でも殆ど確認できないものであった。従って、硝酸イオンはラットの副腎皮質球状帯の肥大の原因にはならないと結論することが出来る。1) (Boink et al., 1996)。  

甲状腺に対する影響
生後56日令の豚に2日及び6週間、硝酸カリウムを3%混餌投与(硝酸イオンとして730 mg/kg bw/日に相当する。)した。 メトヘモグロビン濃度、血清T4、T3、硝酸塩及びソマトメジンを測定した。母獣が硝酸カリウム摂取後に十分なヨードを摂取するとT4量の低減を防止することが出来た。 6週間硝酸カリウムを投与した群においては、ヨードを0.5 mg/kg bwの割合で餌に強化してもT4の減少を防止できなかった。又、硝酸塩の投与に起因して生じる血清ソマトメジン活性の低下も観察され、この低下は豚体重増加率の低下に相応するものであった。2) (Jahreis et al., 1907)

行動に及ぼす影響
硝酸塩を投与したラットにより、知覚運動機能及び学習行動の発達を観察した。 妊娠並びに授乳ラット(1群50匹)及びその子供に硝酸カリウムをそれぞれ0、1.12、2.24 mmol/l (0、113、226 mg/lに相当)を含む飲料水を投与した。出生後の反射神経成熟、感覚及び体細胞性パラメーター、自発運動、一方向性アボイダンスの習得、成人期における判別可能な学習行動等についてテストした。反射(正向、クリフアボイダンス)及び聴力驚愕反応は硝酸塩投与群の方が早期に成熟した。オープンフィールド運動も、生後5、7、10日で高かったものの、20日以降は低下した。罰或いは報酬付き記憶学習行動では、硝酸塩投与群に顕著な能力低下が観察された。これらの結果は、行動発達過程で硝酸塩投与によりもたらされた偏差であり、学習能力、特に識別型能力の低下が認められた。2) (Markel et al., 1989)


ヒトにおける知見 (link to HSDB)
ヒトに対する硝酸塩の毒性は、動物と同様に硝酸塩から亜硝酸塩への変換によって生じる。このため、幼児や低及び無塩酸症患者或いは胃に疾患を持つ人では危険性が高くなる。これらの患者は硝酸塩の毒性に対しても感受性が高いと思われる。2)(Speijers et al., 1987; Bruning-Fann & Knaeene, 1993; Speijers, in press)。

ヒトに対する致死量は硝酸イオン(NO3―)として4-50 g (NO3―として67-833 mg./kgに匹敵する。)と報告されている。毒性の基準として、メトヘモグロビンが生成する毒性量はNO3―として2-5g (Corre & Breimer, 19792))、6-9 g (Fassett, 19732))と報告されており、それぞれ33-83及び100-150 mg/kg bwに匹敵する。Fassett(19732))は、硝酸塩による急性の毒性症状として、腹痛を伴う急性胃腸炎、血尿、血便が急激に起こると報告している。反復投与による副作用としては消化不良、精神的抑圧、頭痛、虚弱等の症状が報告されている。Farre et al. (19822))は幼児50人からなるグループで弱いメトヘモグロビン血症が9例で見られたと報告している。毒性発現の理由は井戸水中の硝酸塩(76 mg/L)含有量が高かったためとしている。 

1973-1989年報告された硝酸塩による80例の急性中毒がGao & Guo (19822))により報告されている。 救急施設に運び込まれた患者の多くはショック状態にあり、マイルドではあるが呼吸困難を示し、唇や手先が紫藍或いは青白色を呈し、精神状態は異常を示していた。全ての患者で赤血球に異常は認められず、白血球数は16例で一時的に高かった。 2例でASAT、BUN濃度の上昇が認められたが、いずれも硝酸塩を2 g以上摂取したためと思われる。

年齢が生後11日から11ヶ月の健康な幼若児に硝酸イオン(NO3-)を50 mg 又は100 mg/kg bwを数日間経口投与したところ、メトヘモグロビン量が上昇(5.3-7.5%)したがチアノーゼは見られなかった。 6-7週令の幼若児に、前記投与による症状が回復した直後に、100 mg/kg bwのNO3-を投与すると、チアノーゼが発症し、メトヘモグロビン量も11%上昇した。しかし、個々の幼若児の正確な年齢、投与期間等の詳細に関する報告はない。2) (Gornblath & Hartmann, 1948)


引用文献
1) WHO Food Additive Series No.50 Nitrate (and potential endogenous formation of N-nitoroso compounds) (2002)(link to WHO DB
2) WHO Food Additive Series No.35 Nitrate (1995)(link to WHO DB


   

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