日本医薬品添加剤協会
Safety Data
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和名 リドカイン
英文名 Lidocaine

CAS 137-58-6 (link to ChemIDplus),  (link to JAN DB), (link to JANe DB)
別名 lignocaine、Xylocaine
収載公定書  局方(JP17)  USP/NF(28/23)  EP(5)
用途 無痛化剤,溶剤,溶解剤,溶解補助剤


単回投与毒性 (link to ChemIDplus)
反復投与毒性 (link to TOXLINE)
遺伝毒性
がん原性



生殖発生毒性 (link to DART)
SD系妊娠ラット155匹を用い、ミニポンプを植え込んでリドカインを投与した。用量は100、250及び500mg/kg/dayである。陽性対照にはレチノイン酸を使用した。低及び中用量群では交配前2週間及び妊娠期間中に、高用量群では妊娠3-17日に投与した。妊娠21日目に帝王切開により胎仔を取り出し、対照群及び陽性対照群を含めた1040匹の胎仔について外形、内臓及び骨格奇形を調べた。リドカイン投与のいずれの群においても異常は認められなかった。生殖に関する各種指標にも影響は見られなかった。唯一の変化は、高用量群での胎仔平均体重の低下が見られたことである。結論として、リドカインはSD系ラットに対し生殖機能に有意な影響はなく、催奇形性もない。1) (Fujinaga and Mazze, 1986)

Long-Evans系妊娠ラットを用い、妊娠11日目に6mg/kgのリドカイン(エピネフリン加)、メピバカイン又は生理食塩水を顎咀嚼筋に注射した。出産、成長、性比には影響は見られなかった。薬物投与した親から生まれた仔では、負の走地性訓練(negative geotaxis training)初日に潜伏期間が対照群より長く、足の電気ショックに対してより敏感であった。リドカイン投与の仔では視覚識別試験で反応性の低下が、メピバカイン投与の仔では開放野(open field)での活動性に低下が見られた。2回目の実験では、リドカイン投与の仔で正向反射の発達遅延、水迷路でのエラー増加及び条件抑圧試験での抑圧時間の長期化が見られた。Tail flick試験ではより長時間を要した。これらの結果は、リドカイン又はメピバカインの臨床用量に近い量を妊娠中期に投与すると、その仔に有意な行動異常を惹起することを示唆している。2) (Smith et al., 1986)

妊娠ヒツジ12匹にリドカインを0.1mg/kg/minの速度で180分間持続注入した。その間胎仔は部分的臍帯閉塞により仮死状態下に維持した(妊娠の80%)。対照群5匹についても生理食塩水を同様に処置した。母獣及び胎仔の血圧、心拍数、血液のpH、CO2及びO2分圧をモニターした。胎仔の心拍出量と胎仔臓器への血流分布は標識小球(labeled microsphere)を用い、仮死の前後及び母獣への投与終了後に測定した。母獣及び胎仔の血中リドカイン濃度は、定常時で夫々2.32±0.12、1.23±0.17μg/mLであり、ヒトの硬膜外麻酔時と類似していた。仮死状態下では、胎仔心拍数の有意な低下及び脳、心、副腎への血流増加を来たした。仮死状態下での生理食塩水の投与は胎仔を更に悪化させることはなかったが、リドカインの投与はCO2分圧の有意な上昇、pH、血圧の低下並びに脳、心、副腎への血流低下を来たした。結論として母体から胎盤を通じて臨床的許容濃度のリドカインに曝露された胎仔は、仮死状態に対する心脈管系への適応力を失う。3) (Morishima et al., 1989)

リドカインはin vitroでマウスに神経管閉鎖障害を来たすことが報告されており、SD系妊娠ラットを用いリドカインの催奇形性をin vitroで再検討した。妊娠9日目のAM8:00に胎仔を取り出し、種々の濃度のリドカインを含む倍地中で培養し50時間後に胎仔のサイズ、神経管閉鎖を含む形態について検討した。250μMではsitus inversusの頻度が対照群に比し増加した以外異常はなかった。375μMでは胎仔の成長に若干の遅延が見られたが形態的には異常はなかった。500μMでは全ての生存胎仔で重篤な形態異常を示したが、それらの異常は非特異的であり神経管の閉鎖欠陥は見られなかった。結論としてラットのin vitroにおける催奇形実験では、リドカインは臨床関連濃度よりはるかに高濃度域において催奇形作用を示唆しているが、500μMにおいても神経管閉鎖障害は惹起しなかった。4) (Fujinaga, 1998)


局所刺激性
該当文献なし


その他の毒性
心脈管系に対する作用
ヒツジの成獣、新生仔及び胎仔を用いて中枢神経系及び心脈管系に対するリドカインの毒性を検討した。頚静脈に2mg/kg/minの速度でリドカインを注入した。毒性症状は成獣、新生仔、胎仔共に同じ順序で出現した。即ち、痙攣、血圧低下、呼吸停止及び循環虚脱である。これらの症状を惹起するに必要な用量は胎仔で最も高く、成獣で最も低かった。例えば痙攣を惹起する用量は、成獣で5.8±1.8mg/kg、新生仔18.4±2.2 mg/kg、胎仔41.9±6.0 mg/kgであった。しかし、毒性症状を呈する血中濃度には3群間に有意な差がなかった。これらの結果は胎仔や新生仔は成獣に比し、リドカイン毒性に対する感受性が低いことを示唆している。胎仔において最も高用量を要した事実は、母獣の胎盤クリアランス、及び痙攣や呼吸停止にもかかわらず胎仔動脈の酸素分圧がよりよく維持されていることと関係があるものと思われる。5) (Morishima et al., 1981)

妊娠ヒツジを用い、中枢神経系および心脈管系に対するリドカインの毒性を検討した。2mg/kg/minの連続点滴静注した結果を、以前の非妊娠動物の結果と比較した。全ての動物において毒性症状は次の順序で起る。痙攣、血圧低下、呼吸停止、循環虚脱。これらの症状を呈するに必要なリドカインの用量及びそれらの症状開始時の血中濃度は次の通りである。痙攣;妊娠動物5.9±0.6mg/kg(12.1±0.7μg/mL)、非妊娠動物5.8±1.8mg/kg(11.7±2.0μg/mL)、循環虚脱;妊娠動物40.7±2.6mg/kg(35.1±3.2μg/mL)、非妊娠動物36.7±3.3mg/kg(41.2±6.7μg/mL)であり、妊娠によるリドカイン毒性の強化は見られないようである。これらの結果はメピバカイン(mepivacaine)での結果と類似しているがブピバカイン(bupivacaine)とは類似していない。薬物の血清蛋白との結合率が妊娠によって差があることと部分的に関連があるのかも知れない。6) (Morishima et al., 1990)

神経系に対する影響
それぞれ4匹のサルとイヌを用い、リドカイン塩酸塩1%液を硬膜外に前者には単回、後者には頻回注射し、生理食塩水を同様に処置したものと比較した。84日後に全ての動物を屠殺した。神経根及び脊髄を含む硬膜嚢を腰椎の脊椎管から無傷の状態で摘除し、病理切片を作製して炎症及び線維症の有無について組織学的に調べた。その結果、リドカインを投与した動物に有意な変化は認められなかった。結論として、リドカイン塩酸塩1%液を単回又は頻回硬膜外に投与しても有意な慢性の髄膜反応は起こらないように思われた。7) (Nguyen et al., 1991)

20匹のラットに脊髄硬膜内カテーテルを留置して3群に分け、5%リドカイン(n=6)、10%グルコース(n=7)又は生理食塩水(n=7)を1時間注入した。4日後に挙尾試験(tail-flick test)により持続的な感覚神経障害を評価した。その3日後にラットを屠殺し、脊髄及び神経根を組織病理学的に盲検法で検討した。リドカイン処理ラットでは持続的な知覚障害を来たすが、グルコース及び生理食塩水群には知覚障害は認められなかった。リドカイン群では神経根の中等度ないし高度の損傷が認められたが、グルコース及び生理食塩水群には病理組織学的な変化は少なく、且つ、留置カテーテルに隣接した部位に限局していた。リドカインによる形態学的な損傷は主として神経根に見られ、脊髄及び背根の神経節には比較的少なかった。8) (Hashimoto et al., 1998)

雄性ラットを用い、硬膜内又は外にリドカインを投与して機能的及び形態的な影響を調べた。尾椎のL4-L5部位の硬膜内又は外にカテーテルを挿入し、実験1では麻酔作用の比活性を決定するために16匹のラットに2.5%リドカインを種々の容量で反復注射して、90分間のtail-flick testで麻酔作用を評価した。実験2では比活性を確認するため、濃度を1%、2.5%、5%、容量を20μL、100μLと種々変えて評価した。実験3では生理食塩水、2.5%又は10%のリドカインを20μL又は100μL投与し、持続的な機能障害及び形態学的な検討を行った。その結果、実験1では両投与法共に容量依存的な変化を示し、両投与群間に有意差が認められた。硬膜内/硬膜外の活性比は4.72(3.65-6.07)であった。実験2ではいずれの濃度においても類似したtail-flick latencyの増加が見られた。実験3では10%溶液を硬膜内に投与した8匹のうち5匹は投与後4日間機能障害を来たした。しかし、他の群では異常は見られなかった。形態学的な変化は10%溶液を硬膜内に投与した方が硬膜外に投与したものより著しかった。結論として、持続的な機能障害は硬膜内に投与した時のみに起こり、神経根や脊髄の変化も硬膜内に投与した時の方が強かった。9) (Kirihara et al., 2003)

眼に対する影響
ウサギを用い、4種の局所麻酔剤(ブピバカイン、リドカイン、プロパラカイン、テトラカイン)の角膜内皮に対する影響について検討した。9匹のウサギを8群に分け、右眼には局所麻酔剤の0.2mLを、左眼にはバランスした整理食塩水を眼の前室に注射し、処置前及び処置1、3、7日後に角膜の肥厚度及び澄明度を調べた。ブピバカイン塩酸塩0.75%、リドカイン塩酸塩4%、プロパラカイン0.5%では角膜の肥厚と不透明化が見られ、有意であった。テトラカイン塩酸塩0.5%では、これらの変化は臨床的に認められることもあるが、今回の実験では統計的に有意ではなかった。局所麻酔剤の濃度を10倍希釈した場合には異常は認められなかった。10) (Judge et al., 1998)

34匹のウサギを8群に分け、右眼にリドカインの0.25、0.5、1、2%、ブピバカインの0.25、0.5、0.75%又はリドカイン2%とブピバカイン0.75%の1:1混合液を0.2mL晶子体内へ注入した。4匹の左眼にはバランスした生理食塩水を投与した。網膜活動電位図(ERG)は投与前及び投与30分、90分、3時間、6時間、24時間、1週間後に記録した。ウサギは投与1週間後に屠殺し、組織学的検討を行った。その結果、臨床上不都合な反応及び組織学的な異常はいずれの群でも見られなかった。ERG所見では、生理食塩水を投与した対照群のa波、b波及び実験群のa波は正常であった。実験群のb波は振幅が著しく低下し、implicit timeは増加したが、24時間以内に回復した。11) (Liang et al., 1998)

1群5個のウサギ角膜を切除し、内皮をキシロカイン(リドカイン)1%、同2%又はバランスした塩溶液に20分間曝露した後、内皮をトリパンブルーで染色して顕微鏡写真を撮りdigital imaging systemで分析した。キシロカインは内皮細胞の形態に変化を来たしたが、トリパンブルーに染色される細胞はなかった。 5%のキシロカインに曝露した角膜は更に著しい細胞の変化を示した。対照群を含め15個全ての角膜の特に周辺部において小領域の細胞の消失が見られたが、3群間に有意な差は見られなかった。結論として、ウサギ角膜内皮をin vitroでキシロカインに曝露しても内皮細胞はトリパンブルー染色に関与しなかった。12) (Werner et al., 1998)

18個のブタ角膜を用い、1%、5%又は10%のリドカイン塩酸塩溶液10μLに60分間曝露した。別の6個の角膜には1%リドカイン塩酸塩を30分間曝露した。バランスした塩溶液を対照とし、Janus Green photometryで角膜内皮の障害を評価した。1%溶液では30分及び60分の曝露でも角膜内皮への障害性は見られなかった(対照群;3.32±0.86%、1%30分間;3.00±0.76%、1%60分間;3.26±1.00%)。5%及び10%では有意な障害性、即ち、角膜内皮細胞の消失が認められた(5%;10.7±6.4%、10%;42.3±17.0%)。13) (Eggeling et al., 2000) 

耳に対する影響
ラットを用い、中耳の円形窓にリドカイン、リドカインとプリロカイン又はフェノールを適用した。薬物適用前及び適用24時間、3週間、2ヶ月及び3ヵ月後に、聴覚脳幹反応を2、4、6、8、12、16、20及び31.5kHzで測定記録した。最終測定後にラットを屠殺し、側頭骨を固定・脱灰して組織標本を作製し光顕で観察した。3群共に聴覚脳幹反応閾値と蝸牛の形態に影響を与えた。薬液適用24時間後には全ての群で反応閾値は著しく障害され回復には2ヶ月を要した。6ヵ月後においても反応閾値は、薬物適用前と比べて12kHz以上で障害が見られた。低周波領域における反応閾値の初期レベルへの回復順序は@リドカイン、Aリドカインープリロカイン、Bフェノールであった。蝸牛の形態はリドカインによっては影響されなかったが、リドカインープリロカイン及びフェノールでは影響があり、フェノールによる障害が最も強かった。14) (Schmidt et al., 1990)


ヒトにおける知見 (link to HSDB)
リグノカイン(リドカイン)による故意の死亡例2例の報告。1例は内服による死亡例、他の1例は静注による死亡例である。死後の血中リグノカイン濃度は夫々40及び53mg/Lであった。ゲル以外の内服製剤がないので、内服での事故は稀である。しかし、そのようなゲル製剤の摂取により特に子供及び老人には重篤な副作用が生じる。リグノカインの10-25gという大量経口摂取による成人での事故死例が報告されている。15) (Dawling et al., 1989)

生後1ヶ月齢の乳児にリドカイン50mgを造影剤のヨウ素と間違えて静注した結果、臨床症状として虚脱、呼吸停止、痙攣及び昏睡が見られた。リドカインの血中最大濃度は5.39mg/Lであった。その後完全に回復した。16) (Jonville et al., 1990)

リドカインとプリロカインの共融混合物から成る局所製剤であるEMLAは、局所麻酔剤として閉鎖包帯下に臨床的に使用されている。EMLA適用後に漂白作用が局所に生じることが報告されているが、本作用が局所麻酔剤、賦形薬又は患部の閉鎖のいずれに基づくのかを50名のボランティアで二重盲検法により検討した。1時間包帯で患部を閉鎖した場合、EMLAでは33名(66%)に、プラセボでは3例(6%)に見られ、その差は有意であった。漂白化は包帯除去直後に観察され、3時間以内に消失した。結論として、漂白化作用は、@しばしば見られるが一過性のものである、AEMLAクリーム中の局所麻酔剤によるものであって賦形薬単独又は包帯だけでは発生しない。機序は不明である。17) (Villada et al., 1990)


引用文献
1) Fujinaga M, Mazze RI. Reproductive and teratogenic effects of lidocaine in Sprague-Dawley rats. Anesthesiology 1986; 65(6): 626-32
2) Smith RF, Wharton GG, Kurtz SL, Mattran KM, Hollenbeck AR.  Behavioral effects of mid-pregnancy administration of lidocaine and mepivacaine in the rat. Neurobehav. Toxicol. 1986; 8(1): 61-8
3) Morishima HO, Pedersen H, Santos AC, Schapiro HM, Finster M, Arthur GR, Covino BG. Adverse effects of maternally administered lidocaine on the asphyxiated preterm fetal lamb. Anesthesiology 1989; 71(1): 110-5
4) Fujinaga M. Assessment of teratogenic effects of lidocaine in rat embryos cultured in vitro. Anesthesiology 1998; 89(6): 1553-8
5) Morishima HO, Pedersen H, Finster M, Sakuma K, Bruce SL, Gutsche BB, Stark RI, Covino BG. Toxicity of lidocaine in adult, newborn, and fetal sheep. Anesthesiology 1981; 55(1): 57-61
6) Morishima HO et al., Am. J. Obstet. Gynecol. 1990; 162(5): 1320-4
7) Nguyen et al., Invest. Radiol. 1991; 26(8): 745-7
8) Hashimoto K, Sakura S, Bollen AW, Ciriales r, Drasner K. Comparative toxicity of glucose and lidocaine administered intrathecally in the rat. Reg. Anesth. Pain Med. 1998; 23(5): 444-50
9) Kirihara Y, Saito Y, Sakura S, Hashimoto K, Kishimoto T, Yasui Y. Comparative neurotoxicity of intrathecal and epidural lidocaine in rats. Anesthesiology 2003; 99(4): 961-8
10) Judge AJ, Najafi K, Lee DA, Miller KM. Corneal endothelial toxicity of topical anesthesia. Ophthalmology 1998; 105(7): 1126-7
11) Liang C, Peyman GA, Sun G. Toxicity of intraocular lidocaine and bupivacaine. Am. J. Ophthalmol. 1998; 125(2): 191-6
12) Werner LP, Legeais JM, Obsler C, Durand J, Renard G. Tpxicity of Xylicaine to rabbit corneal endothelium. Catarct Refract Surg. 1998; 24(10): 1371-6
13) Eggeling P, Pleyer U, Hartmann C, Rieck PW. Corneal endothelial toxicity of different lidocaine concentrations. Catarct Refract Surg. 2000; 26(9): 1403-8
14) Schmidt SH et al., Eur. Arch Otorhinolaryngol 1990; 248(2): 87-94
15) Dawling S et al., Hum. Toxicol. 1989; 8(5): 389-92
16) Jonville AP et al.,. J. Toxicol. Clin. Toxicol. 1990; 28(1): 101-6
17) Villada G et al., Dermatologica 1990; 181(1): 38-40

   

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