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和名 フィトステロール 英文名 Phytosterol CAS 949109-75-5 (link to ChemIDplus) 別名 植物ステロール、フィトステリン 収載公定書 薬添規(JPE2018) 外原規(2006) EP(5) 用途 可塑剤 ■単回投与毒性 該当文献なし。 ■反復投与毒性 (link to TOXLINE) ラット ラットにβ-シトステロールを60日間皮下投与したが、肝及び腎に肉眼的、顕微的に明白な障害は認められなかった。肝及び腎の機能試験は、血中のヘモグロビン、血糖、血清中の蛋白、ビリルビン、コレステロール、GPT、GOT等を測定することにより行った。これらのパラメーターは、蛋白とコレステロールを除き、正常範囲内であった。コレステロール値は変化しやすく、雌雄共に用量依存的に低下した。1) (Malini and Vanithakumari, 1990) Wistar系由来のALpk:AP(f)SDラット1群雌雄各20匹に、フィトステロールエステルの0、0.16、1.6、3.2又は8.1%を食餌に混入して90日間投与した。投与期間中は臨床症状、体重、摂餌・摂水量を測定し、投与期間終了時に剖検し、血液検査、臓器重量、臓器の組織学的検査を行った。その結果、投与に起因すると思われる毒性学的に意義ある変化は見られなかった。従って、フィトステロールエステルの90日間混餌投与による最大無作用量(NOAEL)は8.1%と推定された。これは、フィトステロールエステルの6.6g/kg/day、フィトステロールの4.1g/kg/dayに相当する。2) (Hepburn et al., 1999) 1群雌雄のSD系ラットを用い、植物ステロールの0、1000、3000又は9000mg/kg/dayを胃管により13週間強制経口投与した。投与終了後、雌雄各10匹を剖検した。また、対照群及び最高投与群の雌雄各6匹については4週間の回復期間の後にも剖検した。体重増加の軽度の抑制が見られたが、高用量群でのみ有意であった。病理組織所見では単核球細胞の浸潤を伴った心筋炎が高用量群の雄で見られた。高用量群における体重増加抑制及び心筋炎頻度の上昇は、回復期間終了後も回復しなかった。死亡率、臨床所見、摂餌・摂水量、剖検時の肉眼所見、尿検査、血液検査、臨床化学検査、臓器重量等にはいずれの群においても異常は見られなかった。本実験における最大無作用量(NOAEL)は雌雄共に3000mg/kgと推定された。3)(Kim et al., 2002) 以下については該当文献なし ■遺伝毒性 ■がん原性 ■生殖発生毒性 マウス 主としてβ-シトステロールを含有する食餌性フィトステロール混合物(PS)をマウスに5mg/kg/dayを投与し、5世代にわたる影響について検討した。一般的な繁殖に関するパラメーター、生後発育分化、成長、生存率、生殖器重量、性ホルモン量等をF0−F4の5世代にわたってモニターした。PSの暴露によりF2及びF4世代では、血中テストステロン濃度の増加及び子宮相対重量の低下が見られた。また、F3の雌では血中エストラジオールの増加が、F2の雄では精巣中のテストステロンの増加が認められた。これらの一過性の変化にもかかわらず、PSの曝露はマウスの繁殖能に悪影響を与えることはなかった。4) (Ryokkynen et al., 2005) ラット 雌雄のWistar系ラットにフィトステロールエステルの0、1.6、3.2又は8.1%含有食を2世代にわたって投与し、性成熟パラメーター、発情期を含む繁殖能及び発育に対する影響を検討した。肉眼的、顕微鏡的観察はF1、F2の離乳したばかりの生仔及びF0、F1の親動物から得た臓器について行った。臨床所見には異常は見られなかった。いずれの世代においても同腹仔ベースで見た仔の死亡率にも異常は見られなかった。また、交尾までに要する期間(Precoital time)、交尾能(Mating index)、繁殖能、妊娠能、妊娠期間、死産する雌親の数、着床後のロス、生仔の発育等に影響は見られなかった。更に性成熟に関するパラメーター、発情周期の長さにも用量に依存した変化は見られなかった。以上、食餌に混入してフィトステロールエステルを8.1%(2.1-9.1g/kg bw/day)まで、2世代にわたってラットに与えても、F0、F1の繁殖能、F1、F2の発育及びF1の性成熟に影響は見られなかった。本実験における最大無作用量(NOAEL)は混餌8.1%と推定される。これはフィトステロールエステルとしては2.5-9.1g/kg bw/day、フィトステロールとしては1.54-5.62g/kg bw/dayに相当する。5) (Waalkens-Berendsen et al., 1999) その他 成熟した雌雄の湖産マスを用い、産卵前に4.5ヶ月間、主としてシトステロールから成るフィトステロール(PS)の10及び20μg/Lに曝露した。PS曝露雌から得た卵を、PS曝露雄の精子と清水中で人工的に受精させた。その後、受精卵を清水中で孵化するまでインキュベートした。卵黄嚢を有する幼魚を遊泳できるようになるまで観察し、死亡率及び奇形の有無を記録すると共に、胆汁中及び生殖腺中のPSの出現有無等、親サケの生理状態を観察した。更にPS曝露雌の卵を非曝露雄の精子と受精させて性の相違による影響をも検討した。その結果、PS曝露により用量依存性の卵死亡率の上昇、卵サイズの低下及び卵黄嚢を有する幼魚の平均重量の低下が見られた。一般的に変形ないしは有病の幼魚が多く、特に高用量群で顕著であった。しかし、非曝露雄の精子と受精させた群でも同様な異常が見られ、雌依存性のメカニズムが推定された。卵や幼魚に及ぼす影響の雌依存性の原因は卵中のPSの用量依存的な上昇にある。魚中の生理的パラメーター(血中の高エストラジオール、高7-エトキシレゾルフィンO-脱エチラーゼ活性(7-ethoxy resorufin O-deethylase))は曝露雌の成熟化を遅延さすことを意味している。しかし、同群の雄では成熟化は促進している。以上の結果は、粉砕パルプ廃物における天然の木材由来の化合物は、実験室及び粉砕パルプ廃液を含む水中と同じく、マスの繁殖に影響を与えることを示している。製材所から無漂白のまま流される廃液の流れにも注意を払うべきである。6) (Lehtinen et al., 1999) ゼブラフィッシュを用い、3世代にわたって、シトステロールを含む2種類のフィトステロール(PS)に曝露し、その影響を検討した。ひとつは木材由来のものであり、他方は大豆由来のフィトステロールである。血中のビテロゲニン(Vitellogenin)量及び性比の変化を繁殖能異常の指標とした。いずれのPSもZebrafishにビテロゲニンの誘導を惹起した。木材由来PSは性比を変化させた。即ち、第一世代(F1)では雄が、F2では雌が優位であった。大豆PSは使用した濃度範囲ではF1では致死的であった。この多世代にわたる曝露試験でシトステロールを含有するPSは、性比の変化及びビテロゲニン産生を誘導することにより魚の繁殖システムに異常を来たす。7) (Nakari & Erkomaa, 2003) フィトステロールの混合物であるウルトラシトステロール(Ultrasitosterol、主としてβ-シトステロール75.7%及びβ-シトスタノール13%から成る)のGrayling胚(Thymallus thymallus)に対する作用を検討した。卵を1、10又は50μg/Lのウルトラシトステロール(USS)に4週間曝露した。胚及びその後孵化したハエ(Fly)は、曝露の7、14、21、28日後に組織病理学的な解析を行った。曝露開始1週間の間に卵の殆ど(95%以上)が孵化した。USSはいずれの濃度域においても孵化時間を有意に短縮した。胚抽出物中のT3(Triiodothyronine)、T4(Thyroxine)レベルには有意な影響は見られなかったが、興味あることに対照群を含め孵化が近づくとT3レベルは上昇した。結論的には、USSはハエ胚の発育に影響力を有することを示した。これらの変化を詳細に検討するには更に長期間の曝露実験が必要である。8) (Honkanen et al., 2005) ■局所刺激性 該当文献なし ■その他の毒性 ホルモンに対する作用 β-シトステロール、カンペステロール、スチグマステロールの混合物であるフィトステロール(PS)のエストロゲン様作用の可能性について、in vitro 及びin vivoで検討した。In vitro の系では未成熟ラットの子宮のエストロゲン受容体(ER)との競合的結合を指標にPSのERへの結合能を測定した。また、エストロゲン反応性遺伝子の転写活性化についてはエストロゲン誘導酵母スクリーニングで試験した。PSはこれらのin vitroの系では何ら活性を示さなかった。In vivoにおける子宮に対する作用(Uterotrophic)は、未成熟雌ラット(n=10)にPSの0、5、50又は500mg/kg/dayを連続3日間投与した系で検討した。PS及びそのエステル体(紅花油の脂肪酸でエステル化)は、投与終了時の未成熟雌ラットの子宮重量を増加させなかった。陽性対照であるβ-エストラジオール(0.4mg/kg/day)は子宮重量を有意に増加させた。また、既知のフィトエストロイゲン(Phytoestrogen)であるクメステロール(Coumesterol)も弱いながら用量依存性(20、40、80mg/kg/day)の活性を示した。以上、PSはERには結合せず、組換え酵母の系でヒトERの転写活性を刺激しなかった。更に未成熟雌ラットに経口投与して検討したエストロゲン活性も認められなかった。9) (Baker et al., 1999) 血管内皮細胞に対する作用 ヒト培養臍帯静脈内皮細胞を0.7mmol/Lまでのシトステロール濃度で培養し、血管内皮細胞に対する影響をin vitroで検討した。高濃度のシトステロール供給のためにはリポゾームを使用した。0.7mmol/L、72時間では内皮細胞の収縮を来たし、細胞内乳酸脱水素酵素の遊離を増加させた。同、96時間の培養では細胞は部分的に基質から脱離した。この時点で0.35mmol/L濃度では内皮細胞に乱れを生じた。しかし、シトステロールが組織プラスミノーゲン活性化因子を増強させるという以前の報告を確認することはできなかった。10) (Boberg et al., 1991) 酸化物の作用 フィトステロール(PS)は非常に安定であり、その酸化は極端な加熱条件下でしか起こらない可能性がある。酸素存在下にPSを長時間過熱して得たPSのオキシド(Oxide)について、遺伝毒性及び亜急性毒性試験を行った。その結果、約30%のPSオキシドを含有するPSオキシド濃縮物は遺伝毒性を示さなかった。また、ラットに90日間連続混餌投与しても明らかな毒性を示さなかった。後者の実験で混餌投与における最大無作用量(NOEL)は、雄で128mg/kg/day、雌で144mg/kg/dayと推定された。11) (Lea et al., 2004) ■ヒトにおける知見 185名の健常人ボランティア(35-64歳)を用いた二重盲検法にて、植物ステロールを強化したスプレッド(Spread)を長期間使用した際の有効性と安全性について検討した。1.6gの植物ステロールエステルを強化したスプレッド1日20gを1年間摂食させた。その結果、総コレステロールは4%、LDL-コレステロールは6%低下した。α-及びβ-カロテン関連脂質濃度は15-25%低下したが、脂溶性ビタミン濃度は変化しなかった。植物ステロールの血中濃度は、カンペステロールは、2.76から5.31μmol/mmol total cholesterolへ、β-シトステロールは1.86から2.47μmol/mmol total cholesterolへと夫々有意に増加した。赤血球中の総植物ステロールの増加(5.29-9.62μg/g)は赤血球の変形能に影響を与えなかった。男性の遊離及び総テストステロン、女性の黄体ホルモン、卵胞刺激ホルモン、β-エストラジオール、プロゲステロンには影響なかった。その他、血液学的、臨床化学的検査にも異常は見られなかった。報告された副作用で、対照のスプレッドと植物ステロール強化スプレッドとの間に相違は見られなかった。以上、植物ステロールエステル強化スプレッドはコレステロールの低下に有効であり、長期間使用しても安全である。12) (Hendriks et al., 2003) ■引用文献 1) Malini T, Vanithakumari G. Rat toxicity studies with beta-sitosterol. J. Ethnopharmacol. 1990; 28(2): 221-34 2) Hepburn PA, Horner SA, Smith M. Safety evaluation of phytosterol esters. Part 2. Subchronic 90-day oral toxicity study on phytosterol esters?a novel functional food. Food Chem. Toxicol., 1999; 37(5): 521-32 3) Kim JC, Kang BH, Shin CC, Kim YB, Lee HS, Kim CY, Han J, Kim KS, Chung DW, Chung MK. Subchronic toxicity of plant sterol esters administered by gavage to Sprague- Dawley rats. Food Chem. Toxicol., 2002; 40(11): 1569-80 4) Ryokkynen A, Kayhko UR, Mustonen AM, Kukkonen JV, Nieminen P. Multigenerational exposure to phytosterol in the mouse. Reprod. Toxicol., 2005; 19(4): 535-40 5) Waalkens-Berendsen DH, Wolterbeek AP, Wijnands MV, Richold M, Hepburn PA. Safety evaluation of phytosterol esters. Part 3. Two-generation reproduction study in rats with phytosterol esters-a novel functional food. Food Chem. Toxicol., 1999; 37(7): 683-96 6) Lehtinen KJ, Mattsson K, Tana J, Engstrom C, Lerche O, Hemming J. Effects of wood-related sterols on the reproduction, egg survival, and offspring of born trout(Salmo trutta lacustris L.). Ecotoxicol Environ. Saf. 1999; 42(1): 40-9 7) Nakari T, Erkomaa K. Effects of phytosterols on zebrafish reproduction in multi- generation test. Environ. Pollut., 2003; 123(2): 267-73 8) Honkanen JO, Kostamo A, Kukkonen JV. Toxicity of a phytosterol mixture to grayling (Thymallus thymallus) during early developmental stages. Arch. Environ. Contam. Toxicol., 2005; 48(3): 391-6 9) Baker VA, Hepburn PA, Kennedy SJ, Jones PA, Lea LJ, Sumpter JP, Ashby J. Safety evaluation of phytosterol esters. Part 1. Assessment of oestrogenicity using a combi- nation of in vitro and in vivo assays. Food Chem. Toxicol., 1999; 37(1): 13-22 10) Boberg KM, Pettersen KS, Prydz H. Toxicity of sitosterol to human umbilical vein endothelial cells in vitro. Scand. J. Clin. Lab. Invest., 1991; 51(6): 509-16 11) Lea LJ, Hepburn PA, Wolfreys AM, Baldrick P. Safety evaluation of phytosterol esters. Part 8. Lack of genotoxicity and subchronic toxicity with phytosterol oxides. Food Chem. Toxicol., 2004; 42(5): 771-83 12) Hendriks HF, Brink EJ, Meijer GW, Princen HM, Ntanios FY. Safety of long-term consumption of plant sterol esters-enriched spread. Eur. J. Clin. Nutr., 2003; 57(5): 681-92 |メニューへ| |
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