和名 オレンジ油
英文名 Orange Oil
CAS 8008-57-9
(link to PubChem),
(link to
JAN DB), (link to
JANe DB)
別名
収載公定書 局方(JP17),USP/NF(28/23)
用途 矯味剤,着香剤・香料,芳香剤
オレンジ油の主成分として90%を占めるd-リモネンについてのデータも含む。
■JECFAの評価:d-limonene
(link to
JECFA)
d-リモネン投与による雌雄のマウス、ラット及び雌のウサギでの体重増加の有意な抑制結果に基づいて、
ADI(
1日許容摂取量)を
0-1.5mg/kg bwとした。委員会は、食物からの自然摂取及び食品添加物としての摂取を考慮し、食品添加物としての
d-リモネンの摂取を
75μ
g/kg
/dayに制限するよう推奨した。これは最大
ADIの
5%に相当する。
1) (
JECFA
Meeting in Geneva, 1993)
■単回投与毒性
(link to
ChemIDplus)
動物種
|
投与経路,観察期間
|
-
|
LD50
|
文献
|
マウス
|
経口(ジュース)、7日間
|
♂
♀
|
6.3mL/kg
8.1mL/kg
|
Tsuji et al.,
19741)
|
マウス
|
腹腔内(ジュース)、3日間
|
♂
♀
|
3.7mL/kg
3.6mL/kg
|
Tsuji et al.,
19741)
|
マウス
|
腹腔内(ジュース)、10日間
|
♂
♀
|
0.7mL/kg
0.6mL/kg
|
Tsuji et al.,
19741)
|
マウス
|
皮下(ジュース)、7日間
|
♂
♀
|
>25.6mL/kg
>25.6mL/kg
|
Tsuji et al.,
19741)
|
マウス
|
経口
|
♂
♀
|
5600mg/kg
6600mg/kg
|
Tsuji et al.,
19741)
|
マウス
|
腹腔内
|
♂
♀
|
1300mg/kg
1300mg/kg
|
Tsuji et al.,
19741)
|
マウス
|
皮下
|
♂
♀
|
>41500mg/kg
>41500mg/kg
|
Tsuji et al.,
19741)
|
ラット
|
経口
|
♂
♀
|
4400mg/kg
5100mg/kg
|
Tsuji et al.,
19741)
|
ラット
|
腹腔内
|
♂
♀
|
3600mg/kg
4500mg/kg
|
Tsuji et al.,
19741)
|
ラット
|
皮下
|
♂
♀
|
>20200mg/kg
>20200mg/kg
|
Tsuji et al.,
19741)
|
d-リモネン(ジュース中)
3mL/kgをマウス及びラットに経口投与すると、自発運動の抑制が見られた。マウスでは、
d-リモネン投与によりヘキソバルビタールによる睡眠及び体温低下は増強され、ニコチンによる痙攣や死亡は抑制されたが、最大電気ショック、ペンテトラゾール、ストリキニーネ、ピクロトキシンによる痙攣は抑制されなかった。
0.005mg/kg以上の静脈内投与ではウサギ及びイヌの血圧を低下させ、
0.1-0.3mg/kg以上では死亡した。しかし、経口投与では
3mL/kgでもラットには血圧低下は見られなかった。ラットやマウスに高用量の
d-リモネンを単回皮下投与した際には引っかき行動(
scratch behavior)が、静注した際には伸展反応(
stretch
behavior)が見られた。
1)
(Tsuji et al., 1975a)
■反復投与毒性 (link to
TOXLINE)
マウス
1群雌雄各
5匹の
B6C3F1マウスに、
d-リモネンの
0、
413、
825、
1650、
3200又は
6600mg/kgをコーンオイルに混入して、
10mL/kgを週に
5日間、
16日間以上胃管を用いて経口投与した(投与は実質
12日間)。
6600mg/kg群では雌雄共に
5匹全例が、
3200mg/kg群では雄
4匹、雌
5匹が、
1650mg/kg群では雌雄各
1匹が実験終了までに死亡した。なお、
1650mg/kgにおける雌の
1匹は投与ミスによる死亡である。
d-リモネン投与に関連した臨床徴候、病理組織所見に異常は見られなかった。
1) (NTP, 1990)
1群雌雄各
10匹の
B6C3F1マウスに、
d-リモネンの
0、
125、
250、
1000又は
2000mg/kgをコーンオイルに混入して、
10mL/kgを週に
5日間、
13週間、胃管を用いて経口投与した。
2000mg/kg群では雄
1匹、雌
2匹が、
500mg/kg群では雌
1匹が死亡した。更に
125mg/kg群雌
1匹、
250mg/kg群雄
1匹、
500mgkg群雄
3匹及び
1000mg/kg群雄
1匹が投与ミスにより死亡した。
1000mg/kg以上の群では被毛は粗野になり、自発運動の低下が見られた。
2000mg/kg群の
1例では肺胞細胞腺腫が認められた。
1) (NTP, 1990)
ラット
1群雌雄各
5匹の
F344ラットに、
d-リモネンの
0、
413、
825、
1650、
3300又は
6600mg/kgをコーンオイルに混入して、
10mL/kgを週に
5日間、
16日間以上胃管を用いて経口投与した(投与は実質
12日間)。
6600mg/kg群では雌雄共に全例が、
3300mg/kg群では雄5匹、雌3匹が死亡した。
1650mg/kg以下の群では
d-リモネン投与に関連した臨床徴候、病理組織所見に異常は見られなかった。
1) (NTP, 1990)
1群各
5匹の
Fischer-344系雄性ラットに、
d-リモネンの
75、
150又は
300mg/kgをコーンオイルに混入して、
5mL/kgを週に
5日間、実質5日間又は20日間胃管を用いて経口投与し、主として腎障害の進展を検討した。毒性徴候は見られず、摂餌量、体重増加にも変化はなかった。5日間の投与により肝、腎の重量は用量依存的に増加し、腎の近位曲尿細管上皮細胞内には硝子滴及びα
2u-グロブリンの蓄積が用量依存的に認められた。更に実質
20日間投与した場合には、腎髄質の外部域に顆粒円柱及び種々の皮質変化が用量依存的に認められた。
1) (Kanerva
et al., 1987a)
1群雌雄各
5匹のラットに、
d-リモネンの
0、
277、
554、
1385又は
2770mg/kgを
30日間経口投与した。摂餌量の一般的な減少及び用量依存的な体重減少が雄の投与群で見られたが、臓器重量及びその比体重重量には殆ど変化は見られなかった。尿、血液及び生化学検査に異常はなかった。組織病理学検査では、腎における顆粒円柱が雄の
0、
277、
554、
1385及び
2770mg/kg群で、夫々
0/5、
3/5、
5/5、
5/5及び
4/5例に認められた以外に著変はなかった。
1) (Tsuji et al., 1975a)
1群雌雄各
10匹の
F334/N系ラットに、
d-リモネンの
0、
150、
300、
600、
1200又は
2400mg/kgをコーンオイルに混入して、
5mL/kgを週に
5日間、
13週間、胃管を用いて経口投与した。途中死亡例は
2400mg/kg群の雄
5例、雌
9例に見られた。
1200mg/kg以上の群では、被毛は粗野になり、嗜眠、流涙が見られた。腎症は雄の全ての群で見られ、用量に依存して程度は強くなった。腎症は曲尿細管上皮の変性、尿細管腔内の顆粒円柱、尿細管上皮の再生像を特長としたものであった。雄では近位尿細管上皮に硝子滴が対照群を含めて投与群全てに一様に認められた。しかし、慢性腎症は対照群を含めて認められるものの、その程度は用量依存的であるように思われた
1) (Kanerva & Alden, 1987)。慢性腎症は、近位曲尿細管上皮細胞の好塩基性化、尿細管の過形成又は萎縮、ボーマン嚢の線維化及び間質の線維リンパ球反応からなる。萎縮した尿細管は肥厚化した基底膜及び尿細管断面径の減少によって、また、過形成と思われる尿細管は細胞の大きさと数の増加及び断面径の増加によって特長づけられる。
d-リモネン投与ラットの全てに時折認められる近位曲尿細管上皮細胞の壊死/変性は、対照群には見られなかった。対照群を除く全ての投与ラットでは、髄質の外側域線条に見られた顆粒円柱の数は用量依存的な増加を示した。顆粒円柱は著しく拡張し、上皮は希薄化するか又は非存在化する。更に、最高用量群
(2400mg/kg)では、皮質と髄質に多病巣性の硝子様円柱と 尿細管拡張が報告されている。
1) (NTP, 1990)
イヌ
1群雌雄各
3匹の日本ビーグル犬に、
d-リモネンの
0、
0.4、
1.2又は
3.6mL/kgを
1日
1回、
6ヶ月間経口投与した。嘔吐、吐き気がいくつかの動物に用量依存的に認められた。雄の
3.6mL/kg群及び雌の
1.2mL/kg群では体重増加の抑制が見られた。摂餌量、臓器重量及びその相対重量には殆ど影響は見られなかった。尿検査、血液検査、生化学検査では
3.6mL/kg群で総コレステロール及び血糖値が低かったのを除き有意な変化はなかった。組織形態学的には雄の
3.6mL/kg群及び雌の投与群全例に、腎に顆粒円柱が認められた(雄;対照群
1/3、
0.4mL/kg群
1/3、
1.2mL/kg群
2/3、
3.6mL/kg群
3/3、雌;対照群
1/3、
0.4mL/kg群
2/2、
1.2mL/kg群
3/3、
3.6mL/kg群
3/3)。これ以外に有意な変化は見られなかった。
1)(Tsuji et al., 1975b)
1群雌雄各
5匹のビーグル犬に、
d-リモネンの
0、
0.12又は
1.2mL/kg/dayを
1日
2回、胃管を用いて経口投与した(夫々
0、
10、又は
100mg/kg/dayに相当)。最高用量は嘔吐に対する最大耐用量に近い量であると報告されている。摂餌量、体重には影響は見られなかった。臓器重量は雄では腎の相対重量、雌では腎の絶対及び相対重量が増加傾向を示したが、組織病理学的には重量変化に関連ある所見は見られなかった。更に雄ラットで報告されているような硝子滴の蓄積や腎症を示唆すする所見は認められなかった。
1)(Webb et al., 1990)
■遺伝毒性
試験
|
試験系
|
濃度
μg/plate
|
結果
|
文献
|
Ames
test(+&- activ)
|
S. typhimurium、
TA98,TA100, TA1535, TA1537
|
0.03-3μmol/plate
|
陰性
|
Florin et al.,
19801)
|
Ames
test(+&- activ)
|
S. typhimurium、
TA98,TA100, TA1535, TA1537, TA1538
|
0-20μM/plate
|
陰性
|
Watabe et
al., 19801)
|
Ames
test(+&- activ)
|
S. typhimurium、
TA98,TA100, TA1535, TA1537
|
0-3333μg/plate
|
陰性
|
Haworth et
al., 19831)
|
Ames
test(+&- activ)
|
S. typhimurium、
TA98,TA100, TA1535, TA1537, TA1538
|
150mg/plate
|
陰性
|
Heck et al.,
19891)
|
Ames
test(+&- activ)
|
S. typhimurium、
TA98,TA100, TA1535, TA1537
|
0-3333μg/plate
|
陰性
|
NTP, 19901)
|
Yeast(- activ)
|
S. cerevisiae MP1
strain cells
|
0.1-100mM/5x107
|
(1)
|
Fahrig,
19841)
|
Mammarian(-
activ)
|
Mouse embryo
system
|
0-215mg/kg
|
(2)
|
Fahrig,
19841)
|
Mammarian(-
activ)
|
Mouse L5178Y
cells in vitro
|
100μg/mL
|
陰性
|
Heck et al.,
19891)
|
Mammarian(-
activ)
|
Mouse L5178Y
cells in vitro
|
|
陰性
|
NTP, 1990 1)
|
Sister chromatid
exchange(+&- activ)
|
Chinese
hamster ovary
cells in vitro
|
0-162μg/mL
|
陰性
|
NTP, 1990 1)
|
Chromosomal
aberrations
(+&- activ)
|
Chinese
hamster ovary
cells in vitro
|
0-500μg/mL(3)
0-100μg/mL(4)
|
陰性
陰性
|
NTP, 1990 1)
|
(1) Author reported that results indicated that d-limonene was a
co-recombinant and an anti-mutagen.
(2) Author reported that results indicated that d-limonene is inactive when given
alone, but reduces the mutagenic effect of ethylnitrosourea
when the two are co-administered.
(3) Activated: addition of S9 from the livers of Aroclor
1254-induced male Sprague Dawley rats.
(4) Not activated
■がん原性 (link to
CCRIS)
マウス
1群雌雄各
15匹の
A/Heマウスに
d-リモネンを週
3回、
8週間腹腔内投与し、肺に対する癌原性を検討した。用量は総計
4.8又は
24g/kgである。最初の投与
24週後に剖検した。肺癌の有意な発生は見られなかった。
1) (Stonet et al., 1973)
1群雌雄各
50匹の
8-9週齢の
B6C3F1マウスを用い、雄性には
d-リモネンの
0、
250又は
500mg/kgを、雌には
0、
500又は
1000mg/kgをコーンオイルに混入して
10mL/kgを週
5日間、
103週間胃管を用いて経口投与した。マウスは
1日
2回観察し、最初の
12週間は毎週、その後は月に
1回体重を測定した。瀕死状態のマウスは屠殺した。剖検は利用できる全ての動物について実施した。被検物投与に起因する臨床徴候は見られなかった。生存率は雄の
250mg/kg群で対照群に比し低かった以外、差は見られなかった。平均体重は雄では変化なく、雌では
28週の時点で
1000mg/kg群では対照群より
5-15%低かった。病理組織所見では雄の
500mg/kg群で多核又は巨大細胞化した肝細胞の頻度が増加した。肝細胞の腺腫及び癌を併せた出現頻度には有意な差はなかった。雌では実験終了時点でこれらの所見に有意な変化は認められなかった。
|
用量(雄)
|
生存率
|
肝臓
|
|
多核肝細胞
|
巨大細胞化
|
腺腫+癌
|
|
対照群
|
33/50
|
8/49
|
23/49
|
22/49
|
|
250mg/kg
|
24/50
|
4/36
|
11/36
|
14/36
|
|
500mg/kg
|
38/50
|
32/50
|
38/50
|
15/50
|
雌の1000mg/kg群では下垂体前葉の腺腫又は腺腫と癌を併せた発生頻度は対照群より低かったが、過形成には有意差は見られなかった。1) (NTP, 1990)
|
用量(雌)
|
下垂体前葉
|
|
過形成
|
腺腫
|
腺腫+癌
|
|
対照群
|
16/49
|
12/49
|
12/49
|
|
500mg/kg
|
0/8*
|
5/8*
|
5/8*
|
|
1000mg/kg
|
17/48
|
1/48
|
2/48
|
*;Incomplete sampling
ラット
1群雌雄各50匹の7-8週齢のF344/Nラットを用い、雄には、d-リモネンの0、75又は150mg/kgを、雌には0、300又は600mg/kgをコーンオイルに混入して5mL/kgを週5日間、103週間胃管を用いて経口投与した。ラットは1日2回観察し、最初の12週間は毎週、その後は月に1回体重を測定した。瀕死状態のラットは屠殺した。剖検は利用できる全ての動物について実施した。被検物投与に起因する臨床徴候は見られなかった。生存率は39週の時点で雌600mg/kg群では対照群に比し低かった。平均体重は28週の時点で雄150mg/kg群では対照群より4-7%低かった。白内障の発生頻度は雄150mg/kg群、雌300、600mg/kg両群で高く、網膜の変性は全ての投与動物で見られた。しかし、著者らは、最後の10週間を除き雌雄共に最高用量群は動物飼育ラックの最上段で、対照群は最下段で飼育されたため、光源からの距離による影響であるとの見解を示している。雄に見られた皮下組織の線維腫は反用量依存的であったが、線維腫と線維肉腫を併せた頻度は有意ではなかった。皮膚の鱗屑細胞乳頭腫(Squamous cell papillomas)又は癌は用量依存性が見られたが、NTPの対照ラットの頻度の範囲内であり、有意な変化ではなかった。雄ラットの単球性白血病は用量依存的に増加する傾向が見られたが有意ではなかった。精巣の間質性細胞腫も用量依存的に増加し有意であったが、この種の腫瘍はF344系の老齢ラットに通常認められるものであり、d-リモネン投与と関連ある変化とは考えられない。
|
用量(雄)
|
皮膚又は皮下組織
|
血液
|
精巣
|
|
線維種
|
線維種+
線維肉腫
|
鱗屑細胞
乳頭腫
|
単球性
白血病
|
間質性
細胞腫
|
|
対照群
|
8/50
|
8/50
|
0/50
|
10/50
|
37/50
|
|
75mg/kg群
|
2/50
|
4/50
|
0/50
|
10/50
|
47/49
|
|
150mg/kg群
|
3/50
|
3/50
|
3/50
|
19/50
|
48/50
|
雌の300mg/kgにおける子宮内膜の間質性ポリープは対照群に比し増加していたが、今回の対照群自体の頻度が経験的に見て低かったことによるものと思われ、被検物投与に関連したものではないと考えられる。
雄では腎の石灰化(mineralization)と上皮の過形成には用量依存性が見られた。病変は髄質(腎乳頭部)におけるミネラルの直線的な蓄積と乳頭部の移行上皮における巣状の過形成とからなる。過形成はしばしば腎盂の円蓋付近に位置し、時に両側性である。老齢の雄ラットに自然発生的に見られる腎症の程度には用量依存性が見られた。この腎症は尿細管上皮の変性と萎縮、硝子滴及び顆粒円柱を伴った尿細管の拡張、尿細管上皮の再生、糸球体硬化、間質の炎症と線維化を特徴とする。腎尿細管の過形成と新生物は雄の投与群で増加した。尿細管の腺腫、腺癌、及び腺腫と腺癌を併せたものは用量と共に有意に増加した。これらの腫瘍は経験的にも稀なものであり、雌では全ての群で認められず雄でも対照群には見られなかった。1) (NTP, 1990)
|
用量(雄)
|
腎臓
|
腎尿細管
|
|
石灰化
|
上皮
過形成
|
腎症の
程度a)
|
過形成
|
腺腫
|
腺癌
|
腺腫+腺癌
|
|
対照群
|
7/50
|
0/50
|
1.5
|
0/50
|
0/50
|
0/50
|
0/50
|
|
75mg/kg群
|
43/50
|
35/50
|
1.8
|
4/50
|
4/50
|
4/50
|
8/50
|
|
150mg/kg群
|
48/50
|
43/50
|
2.2
|
7/50
|
8/50
|
3/50
|
11/50
|
a) 変化なしを0とし、著変を4とした時の平均値
■生殖発生毒性
マウス
妊娠マウスに、d-リモネンの0、591又は2363mg/kgを妊娠7-12日に1日1回経口投与した。母獣の体重は高用量群で低下した。高用量群の胎仔には、体重低下をはじめ腰肋骨、肋骨癒合等の骨格異常及び化骨遅延が認められた。1) (Kodama et al., 1977a)
ウサギ
妊娠した日本白色ウサギに、d-リモネンの0、250、500又は1000mg/kgを妊娠6-18日に経口投与した。250、500mg/kg両群では体重増加の有意な抑制が見られ、1000mg/kg群では母獣の生存率は有意に低下した(40%)。胎仔の観察では催奇形性は認められなかった。1) (Kodama et al., 1977b)
鶏胚
d-リモネンは、オリーブオイルに混じた25μM/embryoを胚葉上部に単回注射すると異常鶏胚の数が約50%増加することが報告されている。1)(Abramovici & Rachmuth-Roizman,
1983)
■局所刺激性
皮膚刺激性
d-リモネンはヒト(Pirila at al., 19601)、Kleck et al., 19771))、ウサギ(Research Institute
for the Development of Fragrance Materials Inc., 19841)、Research Institute for Fragrance Materials Inc., 19851))、モルモット(Klecak et al.,
19771))及びマウス(Gad et al., 19861))で皮膚刺激作用のあることが知られている。
■その他の毒性
免疫に対する作用
d-リモネンはヒト皮膚(De Groot at
al., 19851))、マウス皮膚(Gad at al., 19861))でアレルギー反応を惹起するという報告と、ヒト皮膚ではアレルギー反応を起こさないという報告(Greif, 19671))がある。
d-リモネンによりラット皮膚に局所内皮の食作用が誘発されること(Gozsy & Kato, 19571))及びd-リモネンはモルモット皮膚にin vivoで、マウス皮膚にin vitroで食作用を増強し(Gozsy &
Kato, 19581))、モルモットで毛細管透過性を亢進さすこと(Kato
& Gozsy, 19581))が報告されている。
BALB/c系雄性マウスに、d-リモネンの0、0.002、0.008、0.033、0.133、0.531又は2.125mg/mLを毎日経口投与した。8週後に脾細胞を摘出し、in vitroでT細胞を刺激するコンカナバリンA及びフィトアグルチニン、及びB細胞を刺激するリポポリサッカライドに曝露した時、脾細胞の分裂反応はd-リモネン投与により抑制された。この現象は4週後の時点では見られなかった。他の1群10匹からなるマウスに同用量のd-リモネンを7日間投与し、投与前及び投与8日後にkeyhole
limpet haemocyanin(KLH)で免疫した。10日後に1次的な効果としてT細胞及びB細胞の反応を見た。2次的な効果としてはKLH接種21日後に再接種し、24日後に測定した。1次及び2次的な反応は、KLHをd-リモネン投与前に接種するならば抑制されるが、d-リモネン投与後に接種した時には刺激された。組織形態学的にはd-リモネン投与マウスから摘出したリンパ網内系組織では有意な2次性の濾胞の発達及び膵、小腸粘膜における顕著なリンパ節の集合体を示した。これらはd-リモネンの最高投与群で明白であった。1) (Evans et al., 1987)
■ヒトにおける知見 (link to
HSDB)
雄ラットのα2u-グロブリン腎症に関連した化合物に曝露される精製工場、化学プラント、その他に従事する社員についての多数の回顧的、予測的な研究がある(Hanis et al.,
19791)、Schottenfeld et al., 19811)、Hanis et al., 19821)、Thomas et al., 19821)、Austin
& Schnatter, 19831)、Higginson et
al., 19841)、Raabe, 19841)、Wen et al., 19841)、Wong & Raabe, 19891)、Page
& Mehlman, 19891))。しかし、腎癌の発生頻度がこれらに関連しているという統計的に有意のある証拠はない。
d-リモネンは安全であり、胆石溶解剤として動物及びヒトで有効である。ヒトにおける副作用は上腹部から前胸部にかけての弱い放散痛、吐き気、嘔吐、下痢である。1) (Igumi
et al., 1986)
■引用文献
1) Limonene (WHO Food Additives Series 30) The thirty-ninth meeting of the
Joint FAO/ WHO Expert Committee on Food Additives (JECFA) World Health
Organization, Geneva 1993 (link to
WHO DB)
|メニューへ|