日本医薬品添加剤協会
Safety Data
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和名 L-リジン塩酸塩
英文名 Lysine Hydrochloride

CAS 657-27-2  (link to ChemIDplus), (link to JAN DB), (link to JANe DB)
別名 L−リシン塩酸塩、塩酸L-リジン、L-Lysine Hydrochloride、L-Lysine Monohydrochloride
収載公定書  局方(JP17
), 食添(JSFA-IX),  外原規(2006) USP/NF(28/23) EP(5)
用途 安定(化)剤

単回投与毒性  (link to ChemIDplus)

反復投与毒性 (link to TOXLINE)
ラット
SD系の雌雄のラットに、塩酸L-リジンの1.25、2.5又は5.0%混餌食を13週間自由摂取させた。その後5週間正常食を与え回復群とした。雌雄共にいずれの群においても臨床症状、体重、摂餌量、摂水量、眼科検査、臓器重量、剖検所見及び病理組織所見等に投与に起因する変化は見られなかった。塩素の血中濃度低下及び尿中排泄量の増加は塩酸塩摂取による代償性反応の結果である。腎の機能、生化学及び組織所見にも異常は認められなかった。最大無作用量(NOAEL)は雌雄とも混餌5.0%と推定される。この濃度は雄では3.36±0.12、雌では3.99±0.28g/kg/dayに相当する。1) (Tsubuku et al., 2004)

ウシ
140-150kgのホルスタイン種の雄ウシに、実験1(30匹)では塩酸L-リジンとしてリジンの0-64g/dayのを強制経口投与した。DMIと窒素利用効率は用量依存的に低下し、特に64g/day群で顕著であった。しかし、ADGと体重/摂餌量比は影響されなかった。血中アルギニン及びオルニチンの低下は見られず、むしろ増加気味であった。尿中には遊離のリジンが検出されたがアルギニンは認められなかった。遊離のオルニチンは64g/day群でのみ尿中排泄が見られた。この群では激しい一過性の下痢が認められた。予備実験でも32g以上の単回投与で下痢を認めており、この下痢はリジンそのものに起因するものであって塩酸部分に起因するものではない。実験2(15匹)では40又は60gを単回投与した。遊離リジンとオルニチンの糞中排泄が増加し、特に後者で著しかった。しかし、遊離アルギニンの糞中排泄は認められなかった。糞中へのオルニチンの著明な排泄増加は、リジンの過剰投与による下痢と何らかの関係があるかも知れない。2) (Abe et al., 2001)


遺伝毒性
該当文献なし


がん原性
該当文献なし


生殖発生毒性 (link to DART)
妊娠ラットに、妊娠0日から20日までリジン又はトリプトファンを混餌投与で自由に摂取させた。投与用量はリジンでは通常食対照群含有量の50%(L-50)、100%(L-100)及び500%(L-500)、トリプトファンでは500%(T-500)、1000%(T-1000)及び2500%(T-2500)増しである。なお、通常食自由摂取対照群(C)とは別に、各投与群の摂餌量に相当する量の通常食を摂取させた群を各群に設けた(matched pair-fed group)。いずれの投与群においても、胎仔に先天性の奇形は見られなかった。L-50、L-100及びT-500、T-1000群では母獣の体重増加、胎仔の状態等に有意な変化は認められなかった。L-500群では、摂餌量はC群より多かったが母獣の体重増加は比較的低く、胎仔の体重及び体長は有意に低かった。また、T-2500群においては、pair-fed対照群が摂餌量低下にもかかわらず母獣の体重増加に有意な低下が見られなかったが、母獣の体重増加は有意な低下が見られた。胎仔体重は全群の中で最も低かった。3) (Funk et al., 1991)


局所刺激性
該当文献なし


その他の毒性
腎に対する作用
溶質利尿を受けているSD系ラット31匹を用い、塩基性アミノ酸としてリジン又はアルギニンを、酸性アミノ酸としてグルタミン酸又はアスパラギン酸を、中性アミノ酸として粗に又はグリシンを125mumol/kg/minの速度で80分間点滴静注した。対照には8匹のラットを用い、等量の尿素又はデキストローズを同様に投与した。糸球体濾過率(GFR)を投与40分前、投与中及び投与40分後に測定した。アミノ酸投与群では全てアミノ酸で対照群に比し有意にGFRが減少した(塩基性アミノ酸62±4%、酸性アミノ酸57±5%、中性アミノ酸33±1%、対照群8±4%)。アルブミン排泄能の促進は塩基性アミノ酸でのみ有意に見られた(360±72%)。アミノ酸投与ラットでは対照群に比し、軽度の尿細管障害を伴った組織学的な変化が見られた。以上のデータは@アミノ酸は一般的に腎毒性誘発能を有する。A腎毒性は部分的にはアミノ酸の非可変部分に由来する。何故なら可変部分を持たないグリシンもGFRを低下させる(32±1%)。BGFRを低下させる能力は可変部分によって増強されるが、可変部分の電荷は重要な因子ではない。Cアミノ酸によるアルブミン排泄の促進とGFRの低下は夫々別のメカニズムによる。以上、アミノ酸輸液投与は急性腎障害時の一般的な治療法となっているが、急性腎障害の回復や腎機能に悪影響を及ぼす可能性を考慮すべきである。4) (Zager et al., 1983)

リジンはラットで急性腎障害を起こす。この急性期の影響を検討するために、ラットに8.9mg/kg/minの速度で4.5時間点滴持続注入し、等張のデキストローズを注入した対照と比較した。血圧は両群で安定していた。尿細管内圧、イヌリンクリアランス(CIn)、腎血流量を45分間隔で測定した。尿細管内圧はリジン投与90分で上昇した。このとき尿細管によって反応は異なった。しかし、デキストローズを投与したラットの尿細管内圧は正常で、且つ尿細管で一様であった。リジン投与ラットにおける135分CInはデキストローズ投与ラットの45%であった。リジン投与により尿産生量は低下した。腎血流量は135分間は正常を維持しており、180分までは有意な低下を示さなかった。尿細管の有意な拡張がリジン投与ラットでは90分で始まった。即ち、尿細管圧の上昇と尿細管拡張に続いてCInが低下し、最後に腎血流が低下する。このことはリジンが主として尿細管の閉塞を介して急性の腎不全を来たすものと考えられる。5) (Racusen et al., 1985a)

著者らは高用量のリジンは単独でも急性腎不全を誘発することを報告してきた。しかし、症状の持続期における病理形態像及びこのような腎不全が他のアミノ酸でも同様に起こるのか、リジンの低用量でも起こるのかは不明であった。今回リジンを600mg/rat、4時間以上かけて投与した時にも持続性の急性腎不全を来たすことが分かった。48時間後にはヒトの急性尿細管壊死に類似したやや明白な尿細管壊死像、再生変化と分裂像を伴った尿細管細胞の巣状喪失が見られた。広範な硝子様円柱の形成が特にヘンレ係蹄の薄い辺縁部に認められた。これらの辺縁の円柱はTamm-Horsfall蛋白を含有していた。グリシン、アルギニン及びグルタミン酸は同一用量(600mg/rat、4時間以上)では腎の形態学的、機能的変化は見られず、リジンでもこれ以下の用量では異常は見られなかった。6) (Racusen et al., 1985b)

膵に対する作用
7週齢のWistar系雄性ラットを用い、リジン4g/kgの単回大量投与した際の膵への影響を検討した。腺房細胞での最初の変化は、細胞内Ca濃度の上昇とATPの減少を伴った著しいミトコンドリアの膨化である。初期のCa沈着は膨化ミトコンドリアのマトリックスに起こり、その後種々の変化が生じる。これらの所見は過剰のリジン投与による腺房細胞への障害は、非常に初期の異常としてはCaに対するミトコンドリア膜のバリアーの破損として現れ、細胞外Caがミトコンドリアのマトリックスに侵入し、ミトコンドリアの機能を抑制する。その結果、細胞質が巣状的に崩壊する。自己消化空胞がこれらの部分に現れ、周辺部に存在する酸性フォスファターゼ活性が、リソゾームと融合した結果として上昇する。酸性フォスファターゼの反応は、自己消化空胞内又はその周辺の局所的に崩壊した粗面小胞体に見られる。このことは、障害された腺房細胞において、リソゾームと同様、粗面小胞体が細胞内小器官の崩壊に関与していることを示唆している。7) (Kishino et al., 1986)


ヒトにおける知見
L-リジンの経口摂取に関連してファンコーニ症候群(Fanconi’s syndrome)を発症した44歳女性の症例報告。L-リジンは広く健康食品ショップで利用され、また、単純疱疹(Herpes simplex)の予防や治療に使用されている。本症例では重篤な尿細管間質性腎炎を発症し、最終的に慢性腎不全に進展した。従来、ヒトで認められていなかった本症例の重要性を強調したい。8) (Lo et al., 1996)


引用文献
1) Tsubuku S, Mochizuki M, Mawatari K, Smriga M, Kimura T. Thirteen-week oral toxicity study of L-Lysine hydrochloride in rats. Int. J. Toxicolo. 2004; 23(2): 113-8
2) Abe M, Iriki T, Kaneshige K, Kuwashima K, Watanabe S, Sato H, Funaba M. Adverse effects of excess lysine in calves. Anim. Sci. 2001; 79(5): 1337-45
3) Funk DN, Worthington-Roberts B, Fantel A. Impact of supplemental lysine or tryptophan on pregnancy course and outcome in rats. Nutr. Res(
New York). 1991; 11(5): 501-12
4) Zager RA, Johannes G, Tuttle SE, Sharma HM. Acute amino acid nephrotoxicity. J. Lab. Clin. Med. 1983; 101(1): 130-40
5) Racusen LC, Finn WF, Whelton A, Solez K. Mechanisms of lysine-induced acute renal failure in rats. Kidney Int. 1985; 27(3): 517-22
6) Racusen LC, Whelton A, Solez K. Effects of lysine and other amino acids on kidney structure and function in the rat. Am. J. Pathol. 1985; 120(3): 436-42
7) Kishino Y, Takama S, Kitajima S. Ultracytochemistry of pancreatic damage induced by excess lysine. Virchows Arch B Cell Pathol. Incl. Mol. Pathol. 1986; 52(2): 153-67
8) Lo JC, Chertow GM, Rennke H, Seifter JL. Fanconi’s syndrome and tubulointerstitial nephritis in association with L-lysine ingestion. Am. J. Kidney Dis. 1996; 28(4): 614-7

   

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