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和名 トリエタノールアミン塩酸塩 英文名 Triethanolamine Hydrochloride CAS 637-39-8 (link to ChemIDplus) 別名 塩酸トリエタノールアミン,Ethaol, 2,2',2"-nitrilotris-,hydrochloride, Tris(2-hydroxyethyl)ammonium chloride, Triethanolammonium chloride 収載公定書 薬添規(JPE2018) 用途 緩衝剤 ■単回投与毒性 該当文献なし ■反復投与毒性 (link to TOXLINE) 雌雄C3Hマウス(性別、用量別に1群15匹)の皮膚にトリエタノールアミンを、毎週3回95日間(計37回)適用した。トリエタノールアミンは、0(アセトン溶媒)、10、33、100%(無希釈)の濃度で50μl投与し、1日の投与量は雄で約0.14、0.46、2.0g/kg、雌で約0.16、0.54、2.3g/kgであった。動物は週毎に体重測定し、皮膚刺激を含む臨床徴候を観察した。各群15匹中10匹は屠殺後、臨床化学、血液学的検査に使用した。完全剖検に掛け、肝臓、腎臓、脳、心臓、脾臓、胸腺、睾丸の重量を測定し、対照群と高用群の組織、標的器官の組織病理学的検討を行った。薬剤投与の影響は全ての濃度において適用部位でのわずかな表皮過形成に限定された。トリエタノールアミンは緩徐な局所反応を惹起するが、上記条件では全身毒性は示さないこと明らかになった。1)(DePass LR et al.,1995) ■遺伝毒性 該当文献なし ■がん原性 トリエタノールアミンは様々な家庭用品、化粧品、医薬品に広く使われており、癌原性物質Nニトロソジエタノールアミンに変換されることから、米国立癌研究所はトリエタノールアミンを調査品目に指定した。 以前に行われた国家毒性プログラムによるF344/Nラット、B6C3F1マウスの3ヶ月及び2年間の試験ではラットの2年間の試験で腎尿細管腺腫発生率の僅かな増加から癌原性が示唆されたが、マウスの2年間の試験結果の解釈はヘリコバクターの感染の為複雑で再試が必要であった。雄性雌性B6C3F1マウスにトリエタノールアミンを2年間経皮適用し検討を行った。吸収、分布、代謝、排泄試験は別枠のマウスで検討した。遺伝毒性試験はネズミ腸チフス菌、培養CHO細胞、ショウジョウバエとマウス末梢血赤血球で行った。 [2年間の試験] 1群雄50、雌50匹のマウスの各群に、週5日、雄は104週間、雌は104〜105週間トリエタノールアミンのアセトン溶液を皮膚適用した。適用量は雄は0、200、630、2,000mg/kg、雌は0、100、300、1,000mg/kgであった。全ての薬物投与群での生存率は溶媒のみの対照と同じであった。体重は2,000mg/kg雄群で溶媒対照と比較し、17〜37週と適用期間の最後で低下していたが雌ではすべての投与群で対照と同じであった。処置に関連した臨床所見としては、適用部位の皮膚刺激が認められたが、用量増加に応じ強まり、また雌より雄において激しかった。 剖検時の肉眼所見としては、投与群の雌において肝臓の結節あるいは塊が観察された。また雌の全ての投与群で肝細胞腺腫、肝細胞癌合併肝細胞腺腫の出現率が有意に増加した。630mg/kg雌群で肝臓の血管肉腫の出現率が僅かに増加した。投与群で溶媒対照群よりも好酸球の集蔟が多数見られた。剖検肉眼所見として投与部位の痂皮が投与全群に見られた。処置による上皮過形成、化膿性炎症、潰瘍、皮膚慢性炎症が殆どの用量群で認められ、これらの症状は用量と共に漸次増加し悪化した。 遺伝毒性:トリエタノールアミンはin vitro in vivoいずれの試験においても変異原性を示さなかった。ネズミチフス菌(Ames試験)で変異を惹起せず、ETAに暴露されたCHO細胞を用いた姉妹染色分体交換試験、染色体異常試験でも変異は見られなかった。これらのinvitro試験は全てS9による代謝活性化有無両条件で行った。トリエタノールアミンはショウジョウバエを用いる伴性劣性致死試験も陰性で、トリエタノールアミンを13週間皮膚塗布した雌雄マウスの小核試験(末梢血試料赤血球)も陰性であった。 結論:上記の様な2年間の皮膚投与試験条件で、雄性B6C3F1マウスの肝血管肉腫の発現により、雌性B6C3F1マウスの肝細胞腺腫増加により、癌原性が疑われた。皮膚塗布によるトリエタノールアミン暴露は雌雄マウスの肝臓で好酸球の集蔟を増加させた。投与群では塗布部位に薬物処理による非腫瘍性の病変を生じた。2)(National Toxicology Program, 2004) 以下については該当文献なし ■生殖発生毒性 ■局所刺激性 ■その他の毒性 ■ヒトにおける知見 トリエタノールアミン感受性によるIgE関与の難治性のくしゃみは花粉や吸入抗原に対する鼻アレルギー反応の1つとして一般に認められているが、アレルギー患者で難治性くしゃみが単独で発現することは少ない。8歳の少女が秋に屋根のコールタール塗りの現場を歩いていた時に難治性のくしゃみに襲われた。彼女の個人歴・家族歴ではアレルギー病やその兆候は皆無であった。身体的症状としては鼻粘膜の炎症(ジクジク)が見られたが,花粉と吸入抗原の皮膚テストは陰性であった。経鼻的投与されたクロモリンとベクロメタゾンへの反応は部分的なものに留まり、抗ヒスタミン剤はほとんど効果がなかった。 履歴を注意深く見ると、Miracle White Laundry Soil and Stain Removerで処理された衣類を付けると症状を呈し、脱いでよく洗うとくしゃみが止まり、着ると再発した。プリックテストは10-7〜10-4Mのトリエタノールアミンに陽性であったが他の成分には陰性であった。トリエタノールアミン(10-4〜10-7M)に対して用量依存性の白血球ヒスタミン遊離(25〜27%特異的遊離)が認められ、この遊離(10-5Mで50%)はクロモリンナトリウム(5×10-6M)の前処置で阻害された。 受動皮膚アナフィラキシーがトリエタノールアミン(10-7〜10-4M)で惹起され、トリエタノールアミン特異的IgE抗体がポリスチレンチューブラジオイムノアッセイで検出された。対照はヒスタミン遊離あるいはトリエタノールアミン特異的IgE抗体を示さなかった。以上よりトリエタノールアミンへの暴露はIgEによる難治性くしゃみを発現することが明らかになった3)(Herman et al., 1983) トリエタノールアミンとその化合物は化学産業で乳化剤、安定剤、けん化剤として使われる。アレルギー性湿疹接触皮膚炎の疑いのある患者1,357名に対してトリエタノールアミンのパッチテストを行なった。1,357名中41名で陽性であった。その中29名は静脈不全あるいはスポーツ障害を患っており、しばらくの間、局所消炎薬を使用していたことがあり、多分それらの薬剤中のトリエタノールアミンに感作したと考えられる。4)(Scheuer, 1983) トリエタノールアミンは多くの局所適用製剤中に乳化剤として使用されており、まれに接触アレルギーの原因となる。パッチテストで使われるトリエタノールアミン含有蛍光マーカーペンに反応することから偶然発見されたトリエタノールアミン接触アレルギーの女性患者について報告する。更なる検討でトリエタノールアミンは、この女性の所有する局所適用製品中に存在することが見つけられた。5)(Hamilton et al., 1996) ■参考文献 OECD database (link to SIDS) 1) DePass LR, Fowler EH, Leung HW. Subchronic dermal toxicity study of triethanolamine in C3H/HeJ mice. Food Chem.Toxicol. 1995; 33: 675-80 2) National Toxicology Program. NTP toxicology and carcinogenesis studies of triethanolamine(Cas No. 102-71-6) in B6C3F1 mice(dermal studies). Natl.Toxicol.Program Tech.Rep.Ser. 2004; May: 5-163 3) Herman JJ. Intractable sneezing due to IgE-mediated triethanolamine sensitivity. J.Allergy Clin.Immunol. 1983; 71: 339-44 4) Schuer B. Contact allergy caused by triethanolamine. Hautarzt. 1983; 34: 126-9 5) Hamilton TK, Zug KA. Triethanolamine allergy inadvertently discovered from a fluorescent marking pen. Am.J.Contact Dermat. 1996; 7: 164-5 |メニューへ| |
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