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和名 エーテル 英文名 Ether CAS 60-29-7 (link to ChemIDplus), (link to JAN DB), (link to JANe DB) 別名 ジエチルエーテル、Diethyl ether、Ethyl ether 収載公定書 局方(JP17), USP/NF(28/23) EP(5) 用途 溶剤、溶解剤、溶解補助剤 ■単回投与毒性 (link to ChemIDplus) ■反復投与毒性 (link to TOXLINE) ■遺伝毒性 (link to GENE-TOX) ■がん原性 ■生殖発生毒性 (link to DART) (C57B1/C34)F1マウスを用い、麻酔剤曝露後の副精巣精子細胞の異常有無をWyrobek and Bruceの精子形態アッセイ法により調べた。検討した麻酔剤は亜酸化窒素、ジエチルエーテル、クロロホルム、トリクロロエチレン、ハロタン、メトキシフルラン、エンフルラン、イソフルランで、いずれも各2濃度で計20時間(4hr/day x 5days)曝露した28日後に、副精巣精子細胞を形態学的に観察した。クロロホルム、トリクロロエチレン、エンフルラン曝露では対照に比し異常精子細胞%の有意な上昇が認められた。これらのデータは、全身麻酔薬曝露後の生殖細胞の試験は生殖発生毒性、遺伝毒性を研究する上で有用である。1) (Land et al., 1981) SD系ラットを用い、母獣をエチルエーテル、クロロホルム、テルペンチン(マツヤニ)又はシンナーに暴露した後出産した胎仔について、出生後24、48及び72時間後に身体測定及び小脳の形態発生を観察した。その結果、@シンナー又はテルペンチン曝露母体から生まれた仔の死亡率は夫々20、59%であった。A体重、大きさ、頭部直径を指標とした母獣の子宮内における成長遅延はクロロホルム曝露群に見られた。B小脳の成熟遅延はシンナー、テルペンチン暴露群で見られた。Cプルキンエ細胞数の有意な減少はエチルエーテル、クロロホルム曝露群に見られた。シンナー、テルペンチン曝露では影響はより少なかった。2) (Garcia-Estrada et al., 1990) ■局所刺激性 該当文献なし ■その他の毒性 中枢系に対する作用 動物に有機溶媒を急性的に吸入させると中枢神経抑制剤(バルビツレート、アルコール)に類似した神経行動学的影響が見られる。マウスを用い、3種類の有機溶媒(1,1,1-トリクロロエタン(TCE)、エーテル、フルロチル)について、行動の質的及び量的評価を行う21個の測定からなるワンセットの機能観察(FOB、functional observational battery)を実施した。TCEとエーテルはエタノールを腹腔内投与した時と類似したパターンが得られた。この抑制プロファイルは姿勢の変化、覚醒の低下、歩行障害、前肢握力低下、開脚着地、共同性随意運動障害等を含む。フルロチルも用量に関連した作用が見られたが、抑制性溶媒とは異なり筋肉緊張、前肢握力、開脚着地等の平衡機能又は接触反応、尾はさみ反応を含む感覚及び運動の反応には影響は見られなかった。フルロチルでは、数匹のマウスにおいて手で触れることにより痙攣を惹起した。これらの有機溶媒吸入による急性症状の回復は速やかであり、動物を曝露室から隔離して数分以内に回復した。以上の結果は、これらの溶媒を曝露した際の可逆的影響プロファイルは中枢抑制剤やアルコールのプロファイルに類似する。また、FOBはこれらの溶媒のプロファイルの明確化及び比較に有用である。3) (Bowen et al., 1996) マウスにトルエン(1,000-4,000ppm)、ベンゼン(1,000-4,000ppm)、1,1-トリクロロエタン(TCE、2,000-12,000ppm)、ジエチルエーテル(10,000-30,000ppm)、またはフルロチル(200-600ppm)を曝露した。30分間曝露させた後、不安条件防御試験(CDB, anxiety paradigm conditioned defensive burying test)またはホットプレート試験(hot plate test)を行った。フルロチル以外の溶媒では不安解消様行動が見られ、その強さはトルエン>ベンゼン>TCE>ジエチルエーテルであった。ホットプレート試験では痛み受容作用の増強がトルエン、TCEで、減弱作用がフルロチルで見られ、ベンゼン、ジエチルエーテルでは効果なかった。4) (Paez-Martinez et al., 2003) 内分泌系に対する作用 ラットを用い、正常及び性腺摘除後テストステロン又はエストラジオール投与したラットのエーテルストレスに対する視床下部―下垂体―副腎皮質系の反応を検討した。エーテルストレス負荷及び無負荷20、40分後に血中のACTH(向副腎皮質性ホルモン)及びコルチコステロン、下垂体前葉のACTH、副腎のコルチコステロンを測定した。エーテルストレスにより血中ACTH及びコルチコステロンは上昇し、副腎のコルチコステロンも上昇する。しかし、下垂体ACTHはストレス無負荷に比し著しく減少した。この反応は雄よりも雌で顕著であった。睾丸を摘除後テストステロンを処置したラットではエーテルストレスに対する血中ACTH及びコルチコステロン反応は正常な雄と同様であった。一方、卵巣を摘除した雌では正常雄と同様の反応を示したが、エストラジオール投与により正常雌と同様な反応を示した。このようにエーテルストレスに対する雌ラットの下垂体―副腎皮質系への過剰反応はエストラジオールの刺激効果によるものである。5) (Lesniewska et al., 1990) ジエチルエーテルは種々の行動的影響を有し、ストレスホルモンを刺激するがそれらを惹起する濃度については余り注目されていない。成熟したNIH雄マウスを用い、エーテルを1,000-30,000ppmの吸入室で吸入させて行動及び神経内分泌反応を調べた。ミルク提示FI-60秒間スケジュールで反応を維持した時、1,000ppm、30分間の吸入では行動への影響は最小であった。3,000-10,000ppmでは反応回数は2倍に上昇したが、それ以上の濃度では反応は殆ど完全に消失した。5分間の吸入では同様の濃度で30分間吸入の時よりも小さい濃度依存性の影響が見られた。幼若マウスで同様な濃度範囲でジエチルエーテルを吸入させた結果、血中ACTH及びコルチコステロンの濃度は吸入時間及び吸入濃度依存的な上昇が認められた。10,000ppm、5分間の吸入ではACTHは25.95pg/mLから310.5pg/mLへと上昇し、コルチコステロンには影響なかった。30,000ppm、30分間吸入ではコルチコステロンは70ng/mLから418ng/mLへ、ACTHは19.13pg/mLから80.5pg/mLへ濃度依存的に上昇した。30分間吸入による影響は10,000ppm、5分間吸入の時ほど大きくはなかった。6) (Glowa, 1993) 新生仔脳の性分化時に吸入したエチルエーテルの、雄ラットの成熟後の繁殖性及び性行動に対する影響を検討した。雄性ラットの生誕直後にエーテルを吸入させたところ、成熟時の体重、精巣重量、血中テストステロンには影響は見られなかったが繁殖性に変化が認められた。即ち、精子細胞及び精子数の減少、副精巣尾部の精子通過時間の増加並びに精子産生量の低下が見られた。性行動は低下し、去勢した雄にエストロジェン投与した際に見られるホモ様行動が見られた。恐らく、エーテルは性分化時のテストステロンのピークを遅らせるか低下させ、それが視床下部を介する雄化を変化させるものと思われる。この結果は、胎仔脳の性分化の臨界期である分娩前後にエーテルに曝露すると内分泌に異常を来たし、雄ラットの繁殖性や性行動に長期間の影響が見られ、中枢神経系の不完全な雄化を介した内分泌障害を示唆する。7) (Arena and Pereira, 2002) 循環系に対する作用 18匹のSD系雄性ラットを用い、エーテル麻酔前、麻酔下手術適応時及び麻酔終了後20分、1時間、3時間後に心拍出量、血流分布を測定した。エーテル麻酔により動脈圧は低下し、心臓インデックスは上昇、末梢抵抗は低下した。その後残余効果として動脈圧は徐々に上昇し、末梢抵抗も上昇した。麻酔終了1時間後には心臓インデックスは正常に回復した。脳及び心臓への血流は、エーテル麻酔中に増加し1時間後には有意であった。腎、脾、小腸等他臓器では麻酔中に血流は減少し、少なくとも20分間は持続した。8) (Stanek et al., 1988) その他に対する作用 麻酔剤であるジエチルエーテルの血中グルコース、インシュリン及び脂質に対する影響を絶食下のWistar 系ラットで検討した。ジエチルエーテルはストレス、カテコラミン及びグルココルチコイドの遊離放出のみならず組織のグルコース利用の低下の結果として血中グルコースを有意に上昇させた。しかし、トリグリセリド、コレステロール及びリン脂質には有意な変化は見られなかった。高血糖状態になってもインシュリンの上昇も見られなかったが、ケトン尿、アシドーシス及び炭酸イオンの増加が見られた。これらのラットにインシュリンを投与すると高血糖は是正された。以上の知見はエーテル麻酔下では膵臓のインシュリン分泌促進刺激としてのグルコースを認識する能力を欠いていることを示唆している。9) (Perez-Llamas et al., 1992) ラットをエーテル麻酔すると一過性の高アンモニア血症を呈する。血中アンモニアの上昇は四塩化炭素障害ラットやインドメサシン投与ラットで最も顕著であるが、フェノバルビタール投与ラットでは見られなかった。以上の結果は、肝におけるエーテル代謝とアンモニア代謝の相互作用を示唆する。10) (Watanabe and Kuwabara, 1994) ■ヒトにおける知見 (link to HSDB) 使用過誤 36歳の女性でエーテルを静脈内に自己注射し急性呼吸器苦痛症候群(ARDS)の典型的な症状を示した。血液動態では左室圧低下を伴った正常な血流パターンが見られたが、背腹のレントゲン写真では播種性且つ両側性の肺浮腫が認められた。進展した症状から呼吸器を保護するために酸化窒素の吸入、抗炎症ステロイド投与が選択的治療法となる。11) (Lambermont et al., 1998) その他 エーテル膀胱炎の4例目の症例報告。Foreyカテーテルバルーンの溶解にエーテルを使用した後膀胱炎を発症した。障害の程度は、正常な排尿を維持するために小腸膀胱形成術を必要とする程度であった。Foreyカテーテルバルーンのエーテルによる溶解は機械的な崩壊による方法にとって替えるべきである。12) (Gattegno et al., 1988) ■引用文献 1) Land PC, Owen EL, Linde HW. Morphologic changes in mouse spermatozoa after exposure to inhalational anesthetics during early spermatogenesis. Anesthesiolgy. 1981; 54(1): 53-6 2) Garcia-Estrada j, Navarro-Ruiz A, Banuelos-Pineda J, Gomez V, Albarran-Rodriguez E, Garzon P. Inhalation of organic solvents during the last third of pregnancy in Sprague- Dawley rats, Somatometric and cerebellar consequences in newborn animals. Arch. Invest. Med., 1990; 21(4): 311-7 3) Bowen SE, Wiley JL, Evans EB, Tokarz ME, Balster RL. Functional observational battery comparing effects of ethanol, 1,1,1-trichloroethane, ether, and flurothyl. Neurotoxicol. Teratol., 1996; 18(5): 577-85 4) Paez-Martinez N, Cruz SL, Lopez-Rubalcava C. Comparative study of the effects of toluene, benzene, 1,1,1-trichlororthane, diethyl ether, and flurothyl on anxiety and nociception in mice. Toxicol Appl. Pharmacol., 2003; 193(1): 9-16 5) Lesniewska B, Miskowiak B, Nowak M, Malendowicz LK. Sex differences in adreno- cortical structure and function. XXVII. The effect of ether stress on ACTH and corticosterone in intact, gonadectomized, and testosterone- or estradiol-replaced rats. Res. Exp. Med(Berl). 1990; 190(2): 95-103 6) Glowa JR. Behavioral and neuroendocrine effects of diethyl ether exposure in the mouse. Neurotoxicol. Teratol. 1993; 15(4): 215-21 7) Arena AC, Pereira OC. Neonatal inhalatory anesthetic exposure: reproductive changes in male rats. Comp. Biochem. Physiol. C. Toxicol. Pharmacol. 2002; 123(4): 633-40 8) Stanek KA, 9) Perez-Llamas F, 10) Watanabe A, Kuwabara Y. Hyperammmonemia induced in rats by inhalation anesthesia with ether. Res. Exp. Med(Berl). 1994; 194(3): 157-64 11) Lambermont B, Dubois C, Fraipont V, Radoux L, D’Orio V. Near fatal respiratory distress following massive ether intravenous injection. Intensive Care Med. 1998; 24(6): 624-5, Comment in : ibid. 1999; 25(3): 337-8 12) Gattegno b, Michel F, Thibault P. A serious complication of vesical ether instillation: ether cystitis. J. Urol. 1988; 139(2): 357-8, Comment in: ibid. 1989; 142(1): 141 ■Abbreviation ChemIDplus; ChemIDplus DB in TOXNET, CCRIS;Chemical Carcinogenesis Research Information System , DART; Developmental Toxicology Literature |メニューへ| |
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